ドイツ1919〜1931映画回顧展(1995年11月)
■ファウスト■■■■■■■■
Faust
1925-26年/白黒サイレント/92分
スライド日本語字幕付
脚本:ハンス・キューザー、J・W・フォン・ゲーテ、クリストファー・マーロー、並びに古いファウスト伝説による、ルートヴィヒ・ベルガーのシナリオ『失われたパラダイス』を使用
撮影:カール・ホフマン
美術:ローベルト・ヘルルト、ヴァルター・レーリヒ
製作:ウーファ映画
監督:フリーフドリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ
出演:グスタ・エクマン(ファウスト)、エーミール・ヤニングス(メフィスト)、カミラ・ホルン(グレートヒェン)、フリーダ・リヒャルト(グレートヒェンの母)、ヴィルヘルム・ディーテルレ(ヴァレンティン)、イヴェット・ギルベール(マルテ・シュベルトライン)、ヴェルナー・ヒュッテラー(エルツエンゲル)、エーリク・バークレー(パルマ公)、ハンナ・ラルフ(パルマ公妃)、ロタール・ミューテル(修道僧)
【あらすじ】
メフィストは世界の支配権を手に入れようと努める。大天使ガブリエルとの争いで彼は、どんな人間にも道を踏み外させて破滅へ導くことができる、と主張する。ガブリエルは彼と賭けをし、神へと導くから人間たちを離れさせることにメフィストは成功しないという方に賭ける。ファウストによってメフィストはその力を試すことになる。まずメフィストはその国をペストで苦しめる。老学者ファウストは、彼に一生懸命助けを求めて嘆く人々の前に、なすすべもなく立っている。神が彼を助けてくれないなら、もしかすると悪魔が助けるかもしれないと、ファウストは月光の中の十字路のところで悪魔を呼び出す。しかし、人々は彼の背後の地獄を恐れているので、悪魔の名においてもファウストは、直すことができない。ファウストは毒酒に逃げ道を求めるが、メフィストは彼に永遠の若さの姿を出してだまし、彼にこの世の全ての宝を与えることを約束する。ただし一日だけである。ファウストは同意する。メフィストのマントに乗って、風を切ってパルマへ飛ぶと、そこではちょうど結婚式が行われている。メフィストは公爵を殺し、他方ファウストは美しい公妃をさらう。試しの日は終わった。情事を十分に堪能するためにファウストは延長を切に望み、悪魔に魂を売り渡し、悪魔は、今や彼を情事から情事へとけしかけ、彼にこの世の宝を差し出す。ファウストは故郷を恋しがる。彼の望みをメフィストは満たさなければならない。故郷の町の協会の戸の前で彼はグレートヒェンに出会い、彼女の清純さが彼の心を打つ。ちょうどグレートヒェンの箱の中に魔法で金の鎖を入れておく。それを彼女はおばさんマルテ・シュヴェルトラインのところへ持って行く。ファウストは、子供たちと遊んでいるグレートヒェンの仲間に入り、他方メフィストはシュヴェルトライン夫人で誘惑の手管をためす。ファウストはグレートヒェンに彼の愛を告白する。夜、彼は彼女の部屋に忍び込む。メフィストは飲み屋でヴァレンティンを挑発し、彼を殺す。母親はグレートヒェンの部屋で見知らぬ男を見つけると、悲嘆から死んでしまう。ファウストとメフィストは逃げる。グレートヒェンはさらしものにされ、追い出される。彼女が寒い寒い冬に子供を生んだとき、人々は門戸を閉めて、彼女に何の助けも与えない。彼女は子供を雪の吹きだまりの中に寝かせる。傭兵達が母親と凍え死んだ子供を見つけると、グレートヒェンは裁判にかけられ、火あぶりの刑を申し渡される。助けを求める彼女の叫び声はファウストに届き、メフィストは彼にもう一度仕えなければならない。ファウストは、悲しみ以外には何ものも生み出さない永遠の若さを呪う。メフィストは彼に彼の年とった姿を返す。1人の老人が娘に許しを請うために、刑場へよろめきながら歩いて行く。死の瞬間、グレートヒェンは自分の恋人の姿がわかる。今やメフィストは、世界の支配権を手に入れたと信じる。というのは彼がファウストに道を踏み外させることが出来たからである。しかしガブリエルは天国への道を彼に対して妨げる。なぜなら、ファウストとグレートヒェンの清い愛情が悪魔のもくろみをすべて破壊してしまったからである。
【解説】
1926年の「映画週間」第44号から。「ドイツの封切は、選り抜きの観客を前にして、ウーファ・パラスト・アム・フォーで催された…相当の拍手喝采が得られた…カミラ・ホルンが、その間にアメリカに旅行中だった共演者全員に代って、感謝の意を表した…。まず第一に、カミラ・ホルンは観客を失望させなかった…、しぐさにはしとやかな振る舞いがみられ、まったく内気で、芽生え始めたばかりの憧れと拒否を表現した彼女のグレートヒェンは、さまざまな手練を全く驚くほどマスターした素晴しい出来映えである、…彼女はことによると全アンサンブルの中で、この映画において誠実で明瞭な人間性をになった、唯一の存在だった。本当の心臓の血がこの姿の中に脈打っている。そこで彼女は根本的にはファウスト伝説に重要でない要素を付け加えているにすぎないが、女性の存在一般の宿命的なものを中心に据えている文学作品よりも、それだけ一層われわれに独自の感銘を与える。こうしたすべてをカミラ・ホルンは、あっぱれな集中力でになった。彼女はこの映画の中で、人間である。…メフィスト役する手練の業。全てが十分に考えられ、意図され、とヤニングス、ほとんど名人芸に近いふざけ方を仕上げられている。舞台から来てはいるが、もはや民衆本には根差していないメフィストである。全く愛すべき詐欺師で、芝居の最初と最後でだけお人好しの役柄から抜け出て、肩に翼をつけた全く卑劣な奴になる。…ファウスト博士役のグスタ・エクマン。老人としては精彩がないが、若い博士としては好ましく魅力がある、…奴隷になった悪魔に対しては、主人の地位を厳しく強調するユンカーのような気質。ほかの全ての俳優たちが良く、素晴しく、見事である。監督ムルナウは何事もゆるがせにせず、熱心に調教し、絶え間なく叩き込んだ。映画はピカピカ光るようにきれいで、多くの点で技術的に抜群である。たとえば、ドイツからアルプスを超えてパルマへ行く、メフィストとファウストの飛行の、うまく編集してつないだ映像…上からのこのパースペクティブはすばらしい。飛行の高さの変化、イタリアの平地への下降も見事である。そしてパルマの館での『奇妙な客たち』の出現は、全く脅威である。この映画は、こうした無条件のメルヘンに接しているところに、もっとも美しい箇所と最も尊重すべき長所がある。そしてそうした箇所は、限りない拍手を送る価値がある。異議、あるいは疑念を抱かせる点は、テーマの演劇論的な扱い方については成功を収めているものの、この作品の超自然的なものを論理的かつ倫理的に形作り、利用し尽くそうとするドラマツルギーである。(lokes)」
ドイツ1919〜1931映画回顧展(1995年11月)