ドイツ1919〜1931映画回顧展(1995年11月)
■花嫁人形■■■■■■■■■
Die Puppe
1919年/白黒サイレント/60分
日本語字幕付
脚本:ハンス・クレーリ、エルンスト・ルビッチ(A.E.ヴィルナーの原作による)
撮影:エルンスト・シュパールクール
美術:クルト・リヒター
製作:ウニオン映画社
監督:エルンスト・ルビッチ
出演:オシー・オスヴァルダ、ヘルマン・ティミヒ、ヴィクトル・ヤンゾン、ヤーコプ・ティートケ、ゲルハルト・リッターバント、マルガ・ケーラー、マックス・クローネルト、ヨゼフィーネ・ドーラ、パウル・モルガン、アルトDール・ヴァインシェンク
【あらすじ】
監督のルビッチ自身が玩具箱から風景や人形を取り出して、きれいに並べると、人形が等身大になって動きはじめるというプロローグに続いて、物語が展開する。
金持ちのフォン・シャントレル男爵(マックス・クローネルト)は子供を失って、しかたなく甥のランスロ(ヘルマン・ティミヒ)を後継者にする。そして結婚相手を探すが、ひどく内気なランスロは女性を恐れている。結婚を尻込みした彼は修道院へ逃げ込む。だが彼の叔父が彼のために3万グルデンの持参金を出すことにしていることを知った修道院長(ヤーコプ・ティートケ)は、ランスロを説得して、人形師のヒラリウス(ヴィクトル・ヤンゾン)に人間そっくりの人形を作らせ、その人形と結婚し、持参金の方は修道院に譲り渡すことを承知させる。
ヒラリウスは自分の娘(オシー・オスヴァルダ)をモデルにして、それと生き写しの人形を作る。ところがランスロがこの人形を連れて行こうとした時、若い徒弟(ゲルハルト・リッターバント)の不注意で、腕が折れてしまう。当惑した父親と弟子の罪をかばうために、娘のオシーが人形の代役を務める。彼女はエレガントなランスロに目をつけていたのである。
彼女は巧みに人形になりすましたが、しかしネズミが出てきて恐慌をきたしたので、ばれてしまう。しかしランスロは彼女が気に入り、めでたく本当に結婚することになる。
【解説】
『花嫁人形』は完全に様式化されたおとぎ話である。ルビッチ自身、こう述べている。「『花嫁人形』は『牡蠣の王女』とまったく違ったスタイルの映画であるが、しかしあらゆる点で大成功だった。この映画は純然たるファンタジーである。装置はたいていボール箱で作られていた。それどころかいくつかは紙製だった。今日に至るまで私はこの映画を、自分の作った映画の中で最も着想豊かなものの一つだと思っている」。そこで彼は「玩具箱のコメディ」という副題をつけた。
確かにそれは幻想的なおとぎ話であるがそれだけではない。幻想はアイロニーの笑いに包まれている。たとえば男爵が仮死状態になった時の相続人たちの争いや、修道院の日常生活の辛辣な風刺がそれである。でっぷり太って、放埒で、貧欲で、怠け者の修道僧たちの生活が、茶化される。そこで当時「修道院生活をはずかしめる描写」に激昂した「カトリック婦人同盟」が、この映画に抗議の声をあげた。野暮な話である。むしろボール紙製の装置だけでなく、俳優たちの演技までが、現実離れした幻想性とこっけいなアイロニーに貫かれている演出の見事さを鑑賞すべきである。たとえば幸せなカップルが馬車で新婚旅行に出掛ける時、馬車を引くのは「馬の皮」に入った2人の人間である。
全体としてこの喜劇映画は、バーレスクのスタイルで作られている。1919年の「キネマトグラフ」誌は、こう批評している。「楽しい着想と奇妙なトリックの充満は、まことにユーモラスなサブタイトルと相まって、観客を爆笑させる。若い男が水に落ちて、太陽に向かってその光で彼を乾かしてくれと頼む。すると絵本の中の話のように、側のほうへ滑っていく雲の背後から、太陽婦人が姿を現わして、彼に熱い光を送る。すると若い男は文字通り湯気を立てる。また別の場面では、彼の心臓がズボンの中へ落ちる(しょげ返るの意)、すると彼はそれを長靴のところから再び取り出して、上着の右の場所に入れる(しっかりしているの意)。大きな、白い、無垢の心臓である。人形師のヒラリウス親方は、驚愕のあまり髪が逆立つと、あっという間にその髪が白くなる。それから突然髪の毛が再び黒くなる。彼はさまざまな子供の風船の束に掴まって空中を飛び、人家の屋根の上を夢見心地で超えて行く。このようなとっぴな着想が、この映画にはまだまだたくさんある」。


ドイツ1919〜1931映画回顧展(1995年11月)