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H.V.S通信 vol.23 1998年(平成10年)9月

「風に吹かれて」

 昔、画家だった今は亡き祖父が時折何もせずにボーーッと時の中に身を置いていた瞬間を何度か目撃したことがあります。あれは、何をしていたのかしら?それは、立っている時であったり座っている時であったり、はたまた歩いている時描いている時にふといっさいの動きを止めてただジーッと、ひたすらジーッと。あれは、一体何をしていたのだろうか。考え事をしているような景色を見つめているようなあるいは絵のアイデアの模索でもしていたのかしら?ただ私はその頃祖父のことがキライだったのでいつもイライラとこの疑問を持っていたのです。だけど不思議とこのたたずんだ瞬間の光景は、今も一番強く私の中に残っていて今でも時々祖父の部屋に中庭にぼんやり映ったりすることもあります。そんな時私はあいかわらず、でも今度はとても穏やかに「何を考えていたのかしら?」とボーーッと考えたりするのです。そんな私もこの時、たたずんだ瞬間の中に居たのでしょうか。

 今年の夏は平年よりましな暑さだったんでしょうか。それでも暑くて暑くて。いや暑さよりも際限なくじんわりと私を襲う汗の対処に困ってしまって。ちゃんとした用事がなかったらもう外に出ていく気が起こらなくて家でひっそり過ごしていることが多かったです。年々暑い戸外へ飛び出して行く勇気が減っているようで怖いです。立秋が過ぎ晩夏になっても覆いかぶさったような暑さは健在で、でも時折、これは季節とは関係ないかも知れんけど風を感じることがありました。暑いからよけいにでしょうね。今も家に篭っている私めがけて部屋をすりぬけて風が吹き抜けていきます。やさしいんだけどそよかぜとはちがうと思う。なんとなくオバケがでる前に吹くような風に似てる。突然近づいてちょっとじっとしていると私らを包んでまたどこかへいってしまう。強くなると耳の裏に微かに振動してぶぶうっと鳴る。そういえば昨日の夜も外に出た時にぶぶう風(命名 by 南)に逢いました。その時私は思わず全部の動きを止めてしばし風の中に身を置いてみました。ちょっと腕を広げて。耳の裏で聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな音で「ぶぶう」と鳴るのを聞きました。とても心地よかった。ひょっとしたらおじいちゃんはあの時、風の中にいたのかなあ。こんなふうに道の真ん中に自分の体をぼんやり浮かべるようにして風を感じていたのかも知れません。

 もう二年もまともな旅行に出ていない私は、ついにストレスを感じてとりあえず旅行雑誌を買ってみました。どの国も魅力的で350円の安い雑誌を見ているだけで十分満足することができました。(これで終わっちゃあいかんのやけど。)日本とは色彩の違ういろいろな国の写真を見ているうちにふと、この国にはどんな風が吹くのだろう?と興味がわいてきました。この国ではぶぶう風は吹くのかしら?いろんな国のいろんな風に吹かれてみたい。旅行雑誌をめくるうちにとりあえず次の旅行の一つ目の目的ができたようです。

 ここでも秋・冬・春にはどんな風に吹かれるのでしょうか。季節の変わり目がちょっと楽しみな最近の南香苗でした。
(hvs/minami)


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e-mail michio@jungle.or.jp(中村道男)