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H.V.S通信 vol.24 1998年(平成10年)10月

「青春」に悩まされて
       
 求人広告の採用条件にあてはまらない年齢になりました。もうボクサーにはなれません。もちろん甲子園で野球をすることもできない。30歳を越えてしばらく経つ私には「出来ないこと」がたくさん増えました。端から見ればそろそろ“おっさん”の段階に入り、青春などという言葉が他人事になってきています。 にもかかわらず、私は全然その状況を悲観したことは一度もありません。青春時代より今の方がずっといい。青春時代もそれなりに楽しかったのかも知れないけれど、楽しさや充実度やしあわせを考えたら今の方がずっといい。だから堂々と「大人の方がずっとおもしろいよ」と人に言えます。
 エレファント・カシマシの『風に吹かれて』は、デビューからさんざん世間に悪態をついて、金があれば友達なんかいらないとか、女はペットのようなら飼ってもいいなとか、同情を乞いながら死ねとか歌った10年という時に向かって、静かなメロディーの中で手を振って旅立とうと歌いました。この曲を聞いたとき、涙が出てきて仕方ありませんでした。別に青春の幻影なんかにしばられていたわけではなかったけれど、この曲で「あぁいいんだ、青春なんかにしがみつかなくても。他にしがみつきたいものはいっぱいあるんだ」という気持ちが本当に素直に沸いてきました。あまりにもばかばかしくて最後のあいさつさえしていなかった「青春」に、本当に気持ちよくさよならを言えた気がしたのです。
 
しかしその気持ちが再び吹っ飛ばされる時が突然来ました。スーパーカーの「LUCKY」という曲を聴いてしまったのです。この曲は私が青春時代を終えてしまった存在であることを猛烈な勢いで思い知らせます。この歌に描かれている風景、歌われている感傷、それでも失わない素直さ。絶対に私には表現できない。歌われている事柄が私には全然リアルじゃない。 奇をてらわないイントロ。素朴なアンサンブル。そして聴くたびに胸がしめつけられるメロディー。この曲を聴けば絶対に胸がしめつけられて、若くないことが悔しくて、そしてそんな感情をもつことこそが自分が若くない証拠だということを思い知らされているのを分かっていながら、今日もステレオで何回もこの曲を聴いています。好きになって欲しいけどこんな自分のどこがいいの?と恋人に聞いたり、男らしくあろうとしながらも将来強い心が残ればラッキーと思うところなんて、全く泣けてきます。なんという純粋で懸命な、そして不安げで、でも意地っぱりな歌詞。現在の私にはそのどれもが失ったとは言えませんが、少なくとも変形したものばかりで構成されている歌。記憶が届かない、そして今では持っていたかさえ分からない気持ちで創られた曲。聴かなきゃよかった。
 いま何が欲しいって、「若さ」が欲しい!こんな曲が「日常」として書くことのできる若さが欲しい!私は青春を過ぎてはじめて「青春」が恋しくてたまらない。私は今、猛烈に若さに嫉妬している。やっとさよならしたというのに、今突然の「青春」の反撃にたじろいでます。あぁ...どうしましょう。と、困ったまま締め切りが来てしまいました。結論なんて浮かんできませんよ〜。
(井上 陽平/HVS)





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