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H.V.S通信 vol.25 1998年(平成10年)11月




 ロックLPジャケット展
 日誌





 展覧会場の管理は、常に会場に居なければならないものだが、常にお客さんがいて
くれるというわけではない。ということで、合間に展覧会日誌をつけることにする。
使用するコンピュータは、ロックLPジャケットを提供してくださった喜多洋一さんか
ら中古でゲットした、パワーブック5300cs。



●初日(9.19.土)

 最初のお客さんがグルッと一周すると、「ここにかかってる80%は持ってる」と豪
語。なんでも、甲賀新聞で展覧会情報を発見したとか。デレク&ドミノスの「レイラ
」を指差して、かつて11万円で売ったことがあるとも。「いつ頃のことですか?」と
お尋ねすると、やっぱりLPが一斉に姿を消して、CDばかりになって、しばらくしてか
らの時だったようだ。なんか、米騒動みたいだな。
 昨日の仕込み最中に、朝日と中日の記者が取材に来ていたが、きょう、朝日朝刊に
、喜多さんの顔写真付で、でっかく掲載されている。この記事で初めて知ったという
方がポツポツ来てくださる。
 きょうは、イベントホールで、某会社のイベントがはいっていたので、人が多いか
ら目が話せない。イベントの合間にロビーがいっぱい。何人かが、熱心にジャケット
を見ている。「コレ、コレッ」て感じでジャケットをペンペンさわっている人がいる
ので、「落ちるかもしれんから、さわらんといてね。」と、慌てて促す場面も。
 昼過ぎになって、KBS滋賀の電話インタビューの時間がせまると、碧水ホール・ボ
ランティアスタッフの中村道男さん、碧水ホールオープンから昨年までホールのおか
みさんだった山本百々枝さんが、タイミングよく来館。道男さんが、ラジカセをロビ
ーに引っ張り出す。ロビーにラジオの本番を響かせるというわけだ。インタビュー幕
開けはストーンズの「スタート・ミー・アップ」。きのうE-Radioでたっぷり展覧会
を紹介してくれたDJ川本勇さんも、オープニングはやはりストーンズで「ストリート
・ファイティング・マン」だった。しかし、相手の顔が見えない電話インタビューは
むずかしい。ぼくは、スタジオのほうが性にあってる。
 午後3時頃にドカドカお客さんが来館。レコード屋でバイトしてたときも、この時
間帯にお客さんが多かった。
 高校生の男の子がひとりでじっくり見ている。落書き帳に、「LPの時代に生まれて
いたらよかった」と書いたのは、たぶん彼だろう。
 閉館間際になって、HVSが続々来館。きのう仕込みに参加してくれた南さんは、も
う一回きちんと見たいと。彼女は、最終日の座談会には来られない。「私のロックLP
1枚」には、スティーヴィー・ワンダーをあげていた。タイトルは忘れたが、「レゲ
エ・ウーマン」がはいってるやつ。
 向かいの水口文化芸術会館スタッフである西井さんが閉館ぎりぎりになって来館。
ディープ・パープルないなあ、エアロスミスないなあ、スプリングスティーンないな
あと残念そう。ロックといっても、いろいろありますからねえ。展示枚数300枚にお
さめるのに、喜多さんは無念ではずしたLPもたくさんあっただろう。
 閉館後、その喜多さんが来館。気になっていた空きスペースに、ビートルズの海賊
版、ストーンズの「エモーショナル・レスキュー」でおまけだたというポスター、そ
して本物のジッパー付で有名なウォーホルのデザインによる「スティッキー・フィン
ガーズ」などを追加。展示作業はなかなかスリリングなもんで、仕込みの段階からお
客さんにみてもらうのもおもしろいかもしれない。もちろん条件が合えばのはなしだ
が。今後の参考材料にしておこう。
 
 

●2日目(9.22.火)

 きょうはお客さんが少なそう。そのかわり、台風は確実にやってくるみたいだ。
 本日一番のお客さんが10時半ごろ来館。ところが、お客さんがピタリと止まる。き
ょうも、イベントホールではイベントが入っている。そのイベント開演ごろになって
、いよいよ台風が本格的に。今回の台風は、なめてかかったらアカンかもしれない。
そんな最中、京都新聞の記者が訪ねてくる。残念ながら喜多さんはいなかったので、
明日なら居ると伝える。
 ホールのイベントは、主催者の判断で、途中で切り上げられた。だが、台風まっさ
かりなので、誰も外へ出たがらない。展示を見る余裕もなく、みなさん、ロビーから
外の荒れ模様を見ておられました。


●3日目(9.23.水・祝)

 朝から、きのうの台風の残務処理にかかる。とにかく、庭園には葉っぱと折れた枝
がいっぱい。ホールのようなでっかい建物は、隅っこにもゴミがたまりやすいんです
ね。たぶん、きょうは、関西のホール関係者の多くは、同じ仕事をやってるんだろう
なあ。まあ、予測できなかった事故としては、楽屋のエアコン室外機がちょこっとへ
こんでいたことぐらい。すぐそばに、鉄の蓋が転がっていたので、たぶん、これがど
こからか飛んできてぶつかったんだろう。
 気がついたら、もう9 時半。展覧時刻を9時半からにしておいて正解だった。しか
し、世間も台風の残務処理におわれているのか、お客さんも少な目。中学生か高校生
ぐらいの娘さんを連れてきたお父さんがじっくり、ゆっくり見ている。美しい光景だ。
 安土から来たというご夫婦が喜多さんとかなり話し込んでいる。最終日の座談会に
も来てくれるようだ。うれしい。ぜったい、来てね。


●4日目(9.25.金)

 きょう、一番のお客さんが、「これ、みんな一人の人が持ってるの?」と、質問さ
れる。「懐かしいなあ」を連発。懐かしい世代のお客さんが今回の展覧会は多い。な
んでも娘さんに、最近ギターをせがまれ、押入から引っ張り出してきたり、LPもこの
ごろはせがまれ、これも引っ張りだしてるんだという。娘と、やっと共通の話題がで
てきた、そんな年になったのかなあ、とうれしそう。若い頃はバンドもやってたそうだ。
 昼から、ベストヒットUSAを初回からほとんど見ていたというご夫婦が、子供さん
をつれて来館。幼稚園か小学生の子供さんを連れてくるお客さんも、今回の展覧会の
特徴だ。このご夫婦は、奥さんの方がかなりのフリークなようで、話し出したらとま
らない。ニック・ロウやロックパイルが展示されていてうれしそうだった。
 京都から、装丁家の杉野諒(すぎの りょう)さんがはるばる来館。朝日新聞の夕
刊に、展覧会情報のトップ記事として載っていたと教えてくれる。杉野さんは、いつ
も的確できびしいアドバイスをしてくれる人で、いつも勉強になる。きょうも、ひと
つ良いこと聴いた。展示スペースでどこか一か所、一か所だけでいいからインパクト
のあるスペースをつくること。それで全体が引き締まってくるという。でも、これが
貧乏性にはなかなかできないんだなあ。
 きょうは、かなり濃いお客さんが続いて、こちらもへとへと。極めつけは、ロック
・コンサートお出かけ歴20年にして、もうすぐ1000回目になるだろうというお客さん
。リストも持って来られたので拝見すると、1979年のイーグルス来日野外コンサート
からはじまている。その膨大なリストを見て、少々寒気がした。すごいのは、この人
は、コンサートのチケットを全部持っているということ。予測不可能な人がいっぱい
いるもんですね。


●5日目(9.26.土)

 きょうは、自主企画コンサート、インド音楽の名匠ハリプラサード氏の来日公演日
。心配していた雨もなさそう。さすがの多忙につき、きょうは、自宅に帰っての思い
出し書きとなる。
 LPから遠ざかってしまうには、いろいろな理由があるが、一番多かったのは、レコ
ード針が使い物にならなくなったことと、お引越しの邪魔になったというパターンだ
。捨てたという人もざらで、ぼくがバイトしていたレコード屋の社長がきょう来館し
たが、彼も、倉庫にしまっておいたLPを捨てたそうだ。捨てるのもひとつの見識だ。
だが、踏み切る前にご一報を、といろんな人に伝えた。これは、プレミアがつくとか
、そんなヨコシマなアイデアではないし、たんなるノスタルジアでもない。80年代か
ら本格的にロックにのめり込んだものに、ロックへのノスタルジアなんてない。便利
なCDばっかり聴くようになてしまっても、LPが好き、ただそれだけなんです。そうで
すよね、喜多さん?
 しかし、この展覧会の一番人気はピンク・フロイドの「原子心母」。ジャンルとわ
ず、碧水ホールの自主企画に来てくださってる三重県の伊藤さんは、「60年代後半か
ら70年代がいちばんおもしろくて、熱かったわ。」と言ってのけ、水口在住の金工作
家、畑山さんご夫婦は、ふたりで「原子心母」を持っているという。時代の産物なの
かなあ。
 ハリプラサード氏のリハーサル中、高知公演の主催者から電話が入る。会場が台風
の影響で水浸しになり、公演を中止するという。人事ではない。こういう経験がぼく
らには100%やってこないという保証はどこにもない。だからこそ、生物のイベント
はいとおしいのだが。
 とにかく、きょうは、コンサートも展覧会も無事終わった。


●6日目(9.27.日)

 いよいよ展覧会最終日。1年ぐらいこのままにしておきたいのに、そういうわけに
はいかない。ひさびさにLPと音楽にうもれて、至福の一週間だった。
 午前中に喜多さんが来館。打ち合わせをすませると、喜多さんゲストの座談会開始
まであと1時間。緊張が走る時間帯だ。はたして何人来てくれるだろうか。
 HVS1年生の森野さんと、同じく1年生の中島さんが早い目に来館。森野さんは、ロ
ックン・ローラーっぽいファッションで来館。意識してきたな。
 予定時刻を5分遅れで、いよい座談会スタート。前半はぼくが聞き手役となって喜
多さんの話しを広げる。喜多さんは、いろいろ話しのネタをつくってきてくれている
が、アドリブでトーク・セッションを展開。展示できなかったLP、CDにも努力の敬意
を表して、めったにお目にかかれないグッズっぽいものも紹介される。ストーンズの
ネタが多いが、これは喜多さんがストーンズ好きなだけでなく、ストーンズは、ずっ
と遊び心のあるものをつくってきたからなんだと思う。時折、HVSの中村道男さんが
、タイミングよくつっこみを入れてくれるので助かる。時間が持つかなあと心配して
いたけど、あっという間に来場者のラウンド・トークの時間になる。「私のロックLP
1枚」を来場者みなさんから披露してもらう時間帯だ。たった1枚を選ぶ残酷さ、でも
あれこれ選んでる時間は楽しかったのではないかなあ。みんな、いろいろな思い入れ
がある。たかだかロックとLPだけど、個人的には、たかだかではないストーリーがそ
れぞれにあるんだと思う。
 ここで、覚えている限り、持ってこられたLPを紹介する。マイク・オールドフィー
ルドの「チューブラー・ベルズ」、ムーディー・ブルース、これはタイトルを失念。
ビートルズの「アビイ・ロード」に「ラバー・ソウル」に「ホワイト・アルバム」、
さらに「ロックンロール」という2枚組の編集盤。坂本龍一が参加しているダンスリ
ー・ルネッサンス合奏団、プロコル・ハルムの「グランド・ホテル」、ロッド・スチ
ュワート、パティ・スミス。参加できないからとお預かりしているLPはグランド・フ
ァンク・レイルロードのライブ盤。届いているFAXも紹介する。2年前の自主企画ライ
ブで来演してくださったピアニストの谷川賢作さんは、ディープ・パープルの「マシ
ン・ヘッド」か「イン・ロック」とFAXでメッセージしてくださった。高校生のころ
、周囲はツェッペリン派が大半で、ジョン・ロードのキーボードに心酔していた賢作
さんは、肩身が狭かったという。彼も、今週はいよいよメジャー・デビュー。メジャ
ー・レーベルだから、水口のレコード屋、おっとCD屋にも並ぶことだろう。
 座談会が時間どおり終了し、撤去までの30分間、みんな思い思いに空間を楽しんで
いる。そして、いよいよ撤去の時間になっても、かなりのお客さんが帰ろうとしない
。いつも間にか撤去を手伝ってくれている。いったん丁寧にご遠慮申し上げたのだが
、その場の雰囲気にまかせることにする。お客さんも、離れ難かったのだろうか。せ
っかくなので、最後まで残ってくださったお客さんとスタッフが混じって記念撮影し
た。来てくださったお客さんは、いつまで、この展覧会を覚えてくれるのだろうか。
 この企画を開催するにあたって、いろんな人から、「ロックって、どこからどこま
でがロックなんです?」と聴かれた。そんなもん、ぼくにわかる訳ないじゃあないで
すか。ロックって、個人がロックと感じれば、それがロックなんだと今は思ってるし
、個人が思ったことがダイレクトに表現できるのがロックだと思っている。ロックは
ジャンルじゃないとも思う。たとえば、晩年になって、やっと子供の絵が描けたと喜
んでいたというピカソは、ロックな人だと思う。
 ミック・ジャガーは、ロックでもっとも重要なことは「3つのコードとエネルギー
だ」と言ってたし、クラプトンはロックを「若者の民族音楽だ」と定義していたこと
があった。でも、若者とは、けっして年齢をさすものではないし、若気のいたりを指
すものではないと思う。できるだけ自由であること、でもその自由には自分の責任を
伴う。こんなことは、教科書ではぜんぜん教えてくれない。
 今、突然、尾崎豊を思い出した。彼は、自由をさけび続けていたが、その自由には
、自己表現の責任がともなっていなかったと思う。そして、自分がさけんで、多くの
人に信奉されてしまった自分が、実はロック的ではなかったと気付いてしまっていた
のではないかと。
 ミック・ジャガーは言っている。ステージに立ったら観客に責任を感じると。だか
ら、彼は50代の年齢になってもロックし続けていられるのではないかと思う。
(文責/上村秀裕・碧水ホール学芸員)
 


喜多さんからの補足

>ここで、覚えている限り、持ってこられたLPを紹介する。チューブス。
    マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」です。
>ムーディー・ブルース。これらはタイトルを失念。
    タイトルは「童夢」です。
>ビートルズの「アビイ・ロード」に「ラバー・ソウル」に「ホワイト・アルバム」。
    さらに「ロックンロール」という2枚組の編集盤。
>坂本龍一が参加しているダンスリー・ルネッサンス合奏団。
>「青い影」の入っているプロコル・ハルム。
    タイトルは「グランド・ホテル」。「青い影」は入ってません。
>ロッド・スチュワート。パティ・スミス。ラモーンズやディーヴォなどが参加している
>「ロックン・ロール・ハイスクール」というサントラ。喜多さんは洒落で、ずうとるび
のLPを。
>これは、わざわざアビイ・ロードで撮影されたというジャケットだ。参加できないから
とお預かりしているLPはグランド・ファンク・レイルロードのライブ盤。

以上必ず直せというわけではありませんが、チューブスとプロコル・ハルムは直し
た方がいいと思います。とりあえずご返事まで。




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e-mail michio@jungle.or.jp(中村道男)