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H.V.S通信 vol.26 1998年(平成10年)12月



淀川長治さんが
亡くなった日


             


映画評論家と肩書きを記さなくとも、名前がそのまま映画の代名詞になる人、淀川長治(よどがわ ながはる)さんが、1998(平成10)年11月11日に亡くなられた。享年89歳。
淀川さんは、映画との付き合い方を、いろいろ教えてくださった一人だった。「映画は、百人いれば、百とおりの愛し方ができる」と書かれていた言葉は、そのひとつだろう。
淀川さんをお迎えして、映画談義で盛り上がろう、などという企画を考えていたことがあった。これは夢でもあった。淀川さんとお会いしたことはなかったし、とうとう、お話しを生で聞く機会を得ることもなかった。
 一見、写真やTVでは温厚な方に見えたけど、映画を観る目はたいへんきびしい人だったような気がする。どんな映画でも、いいところを見つけて、そこを伝えようと懸命だった。どんなにくだらないかもしれない映画でも、これは、という瞬間を鋭く見つけておられた。そして、自分が気に入った映画は、たとえ他に誰も評価しなくても、自分の考えを曲げず、果敢に評価しておられた。映画をつくる人には励みになっていたと思う。そのかわり、人を見下ろして、ばかにしたような思い上がった映画には、さらりと、時にはこっぴどく叱っておられた。たとえアカデミー賞なんかをいっぱいもらっていようとも、世界中で大ヒットしているような名画であっても。そんな過酷な仕事を繰り返しておられたのは、何よりも、映画を必要として、映画を観に出かけようとする人を大事にしたかったからだと思う。そうそう、長生きするのも結構悪くはないもんだってことも、淀川さんには教えてもらえたような気もするなぁ。
(上村秀裕/碧水ホール学芸員)



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