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H.V.S通信 vol.10 1996年(平成8年)10月

Takeyama Seigen
HVS東京ツァー報告

第2弾


 2日間にわたって行ったHVSスタッフ東京ツァーの中で、共通部分の見学先については、他の報告を読んでもらうとして、東急Bunkamuraシアターコクーンでのエイジアン・ファンタジィ第4日目を報告しよう。

 このコンサートはご存じの仙波清彦(パーカション)・久米大作(ピアノ)を中心にASKA・Stringsの面々が、二胡の賈鵬芳(ジャー・バンファン)・古琴/姜小青(ジャン・シャオチン)・三弦/費堅蓉(フェイ・ジェンロン)・琵琶/邵容(シャオ・ロン)・揚琴/成燕娟(チャン・イェンジュエン)・笛子/池英籌(チ・インチョウ)という現代中国民族音楽界の代表的な人々を迎えている。さらにボーカル陣の特別ゲストに、ソロ活動を始めたチャカとこのコンサートのために中国No.1の歌曲歌手劉玉婉(リュー・ユーワン)を加えた、超豪華メンバーであった。

 通常このような編成では、船頭多くして・・・の例えの如く、個々の技量以外の影響があって、かなりおざなりな演奏がしばしばみられるが、今回は演奏者自身がすごく楽しんで演奏していた。言い替えれば、演奏者がこの年一回のコンサートを楽しんでノリまくっていたので、聞く方も大いにノッていたし、私などはコンサート終了後も興奮がしばらく収まらなかった位であった(おかげで一人で池袋西口へ行き、楽しく中国料理を食べ、紹興酒・ビールを少々飲み過ぎてホテルへの道を間違え、チェック・インが日付変更直前になる羽目となった)。従来の中国音楽で会場がこんなにノリまくったという事は初体験で、こう言うコンサートが身近かにある東京が非常にうらやましい! 

    さて、個々のプレイヤーについてみると、まず何んと言っても賈鵬芳の胡弓のすばらしさが目についた。それは技量的には勿論、過去に聞いた多くの引き手の音色の中でもその頂点だと思う。また、すごく理性的な美人(今回は超一級の美人ぞろいだが)で琵琶の名手の邵容、まったくウットリさせられる音色であった。日本の琵琶と違って爪での演奏は、琵琶の細かな音色が豊かに表現されていた。古箏の姜小青の表情豊かな琴音もさすがで、開演前には買うまい買うまいと深く心に誓っていたのに、終演後ふっと気付けば手に姜小青と賈鵬芳のCD二枚を持って行列の中にいました。今、姜小青の箏と賈鵬芳の胡弓は忘れられない音色のひとつとなってしまった。(ちなみに忘れ難い一番はヒュバート・ロゥのフルート)

 ゲストでは、ソロとして再出発する(7月23日にソロの初ライブがあるらしいが、奇しくも久米大作さんの誕生日でもあるらしい)チャカの力強く透明感に溢れる歌声は聴衆を魅了していたが、如何せん劉玉婉の圧倒的な声量の前にはどうしようもなかっただろう(決してチャカの技量や才能がどうと言う事ではないが)。劉玉婉ははじめて聴いたが、中国歌曲「希望之星」コンクール金賞受賞後、数十ヶ国での演奏活動で養った実力は、その豊かな声量と発声法とともにすばらしいの一言に尽きるだろう。

 舞台展開は前半で中国音楽を賈鵬芳がリードして進め、突如としてそれまでの静の中国世界から躍動するアジア、成長する動の東アジアを象徴するかのような大音量とともに、後半へと突入していった。そこは久米大作と仙波清彦の世界とも言うべきエネルギッシュな、パワー全開の世界であった。

 そうしたプログラムの中で、久米大作が北京での印象を交響詩的に四つの部分からなる曲(久米さんからは曲名の紹介は聞こえなかった。)は中国のあの風景や人的動態を知っている私には十分理解できる印象深い曲であった。
 聞くところでは、このエイジアン・ファンタジィは五日間リハと本番が同時進行するという、また飛び入り参加の演奏者もあり、まさにハチャメチャな進行だそうである。翌最終日のリハと本番を見ていてもその雰囲気の一端はわかったが、いま思えば四日目のリハも見たかったなぁ。なかなか生真面目そうな中国勢と楽しくノリまくっていた日本勢の本番以外のやりとりがあったに違いないから。
(Takeyama Seigen/館長)


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