H.V.S通信 vol.54 2002年(平成14年)8月
こどもが出来ると コンサートに行く時間がな〜い!? プログラムb親子で楽しむクラシック 8月24日(土)午後2時開演 光永三姉妹を迎えて 〜ピアノとフルートによる室内楽〜 前売当日共、大人も子ども(0才から)も\1000 ペア券\1500(前売のみ) 合唱をやってる人におすすめ 『合唱』+弦楽アンサンブル プログラムc メイン・コンサート 8月25日(日)午後7時開演 「神戸市混声合唱団の ソリスト達とともに」 〜ウィーンからのおくりもの〜 前売当日共\2000 ペア券\3000(前売のみ) <出演> 神戸市混声合唱団 京都チェンバー・アンサンブル 企画・監修 鈴木博詞 |
プログラムdあなたのピアノ +室内楽ワークショップ ■ワークショップは公開です。 見学は\500(両日とも有効・当日のみ取扱い・・ 『オケ夏』のどれかのチケットを提示いただいた方は 無料です。) 【スケジュール】 8月24日、25日10時〜12時 ■参加申込みは締切りました。 (写真:昨年のピアノワークショップ) ![]() |
『MI・TA・RI!』を観たり! >というダジャレはこの際おくとしよう。そして、映画上映前の休憩(!)という恐らく前代未聞の事態をめぐる顛末も、この際おくとしよう。ライヴならではのハプニングの末、原將人監督の最新作『MI・TA・RI!』が7月20日、碧水ホールで上映された。3台の映写機を使い、原監督と奥様MAORIによる歌とナレーションの付く「ライヴ映画」 である。この映画は、過去の日本映画のカットやビデオの映像が入り交じる、ゴダールの『映 画史』を彷佛とさせる(?)冒頭部から始まり、新幹線の窓に映る現在の日本の風景を 経由し、祇園祭、そしてヒロシマ、ナガサキ、オキナワへと移っていく。 この映画のキー ワードは3という数字だろう。まず主な登場人物が3人、つまり、原將人監督、MAORI、 そして息子の鼓卯(こぼう)くん。そして、ビデオプロジェクター1台と8ミリ映写機2台と いう計3台の映写機。さらに映画のなかで交錯する3つのものへのまなざし。 3つのも のへのまなざしとは、一つには、西洋化される以前の、今は失われてしまった、われ われ「日本人」の文化や生活に対するまなざし(引用された時代劇のカット、新幹線 からの富士山、祇園祭・・・)。次に、現在のわれわれのあり方へのまなざし(新幹線 の窓に映る郊外、そして国歌・国旗をめぐり復古的になる近年の日本・・・)。そし て新たに誕生し未来へ羽ばたいていく鼓卯くんへのまなざし。この過去から未来へ の3つのまなざしは同時に、「日本人」であること、個と国家との関係、そして個人 の最小単位である家族という、個人と社会をめぐる3つの枠組みのあり方の模索でも ある。『MI・TA・RI!』は、複雑にからみ合ったこれらのテーマが同時進行していく。 「日本」的なるものへの思い、個人と国家のあり方の探求、そして戦争という暴力に 対する憤りから出発した旅は、オキナワで帰結を迎える。オキナワから、監督は現代 の「日本」を照射しようとする。オキナワに行って監督が発見したものは、現在の 「日本」が失った何かを保持しているオキナワであり、また轟音とともに飛び交う米 軍の戦闘機に象徴される戦禍の爪痕の残るオキナワ、そして「日本」に収まらず、む しろ他のアジアとつながっているオキナワ、という3つのオキナワの姿であったろう。 このオキナワの姿は、かつての日本の姿を思い起こさせるだけでなく、過去の戦争の 罪と犠牲を清算していない現在の「日本」の姿を浮かび上がらせ、またアジアへと開 かれていく可能性を秘めた未来の「日本」の姿を予感させる。 ときに相反するこれらのテーマを同時に提示するにもかかわらず、否、むしろそれゆ え、『MI・TA・RI!』は、「古き良き日本」を懐古するような陳腐な反動的映画とはな らず、また政治的色合いを帯びたイデオロギッシュな映画ともならず、また自分たち の幸福を他人に押し付ける類のホームムービーともなっていない。 この映画の不思議 なところは、「日本」という地に住むわれわれがいかにあるべきかを探究しながらも、 観ている者に、その問題に直ちに取り組むことを要求しない、ということである。言 いかえれば、この映画はわれわれを内省へと導くための映画というよりもむしろ、わ れわれが純粋な感受性でもって体験するための映画なのである。幹線道路を走る車窓 からの風景と、それに折り重なる8ミリのフィルムの映像、そして歌と音楽のハーモ ニーは、母体の中にいるかのような安堵と陶酔とをもたらす。観客の間から失笑のも れる原監督の歌声には、しかし何でも許してしまいたい気分に駆られてしまう不思議 な力がある。そして原監督の最後のナレーションからMAORIの歌へ移る最終シーンで、 われわれは言いしれぬ高揚感に襲われる。原將人映画体験とは、このことを指すので あろう。この映画はフランクフルト国際映画祭観客賞とのことだが、なにより「日本」 に住む人たちに体験して欲しい映画である。 ( いわいがく・HVS) |
![]() 原將人監督の最新作 『MI・TA・RI!』が 7月20日、 碧水ホールで上映された。 ![]() リハーサル中の原監督 |