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H.V.S通信 vol.57 2002年(平成14年)12月



vol.57-31
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ウィーンフィルの メンバーによる 室内楽の コンサートが 甲南町で その5
 
  ウィーンフィルの メンバーによる 室内楽の コンサートが 甲南町で その5

 オーストリアカラーのポスターから始まった、この企画もアンコール曲ヨハンシュトラウスの『春の声』で幕を閉じました。ご来場いただいた多くの方々に感謝しております。ペーターヴェヒター氏はじめフィルハーモニアアンサンブルウィーンの方々にも、遠方より演奏に来ていただいて大変感謝しております。
 さて、演奏の評価に関しては聴いていただいた方一人一人の感性にお任せするとして、今日は彼らと同行して知ったことなどを書いてみたいと思います。
 HVS-VOL54での『音楽家の日常生活におけるBGMは?』の問題。結論『BGMは全く聴かない』でした。CDなどを聴くことはあってもそれは音楽と対峙した聴き方であって、聞き流すことはしないそうです。生活の中では『音がない』方が良いそうです。  『生の魚とか蛸は食べられるか?』などと外国人に対しての月並みなつまらない質問をしつつ(私にとっては重要な問題でした。なぜなら私自身が作る夕食の内容に密接な関連があるからです。)柘植から油日神社の周辺を通り抜け、典型的な日本の農村風景の中、「何処に連れて行かれるか心配じゃないか?」の質問には「私たちは日本に来ても都市間を移動することが多くこのような景色を見る機会が少ない。だから景色を楽しんでいる。」と答えた後「テロの心配もない。」と付け加えた。冗談のようにも聞こえるが、彼らは世界を回る芸術家でロシアでの事件の事もあり常に彼らの頭の中にはテロの問題があるのだと、単なる冗談とは感じられませんでした。
 お昼 じゃがいも到着。当たり前のことですが、彼らは楽器を大切にします。さすがにコントラバスは車中においたままですが、その他の楽器は必ず持って降ります。コントラバスの積んだ車は日陰に移動。今回演奏に使用する楽器はピアノを除き全て個人所有の物です。(ウイーンフィルのメンバーが使用する楽器は国立歌劇場が所有する物を使っても良い)コントラバスに関しては18世紀の物で値段が付けられないとか(我々はつい値段で価値を決めてしまうなあ)。
 ヴァイオリンのヴェヒター氏は前日に名古屋で買ったデジタルカメラを持ってご機嫌です。じゃがいもに入るなり、私と妻を並べてシャッターを切っています。私のデジタルカメラを見せてくれと言い、「コッチの方が良かったかな」なんて顔をしてます。チェロのレーゼル氏は一番年上で、長くウィーンフィルの運営に関わっていた人。今回久し振りの室内楽で(最近はオーケストラばかり)これまた前日からご機嫌。まじめな顔をして言う冗談に笑いがはじけます。(ぬるいビールが好き)一番若いヴィオラのペヒャ氏は、海のないオーストリア、ウィーン生まれ。大きな海に対するあこがれは強く、前日の宿泊地、津市の海岸を到着した日と次の朝二時間も散歩していたとか。車中でも「琵琶湖は見えるか?」の質問。明日金沢行きの列車の中から見ていただくとしよう。コントラバスのサガート氏は銀髪の物静かな人。本番前に通路で後ろに手を組み立っている姿を見かけたときは映画のワンシーンのようで思わず『かっこいい』と思ったものです。ピアノのヒロコサガート氏はとても美しい日本語を話される笑顔の素敵な方。あのような美しい日本語は久し振りに聴きました。彼女がいなくては私たちは彼らとのコミュニケーションがとれません。
 彼らは楽器を大切にしますが自分自身の体調管理も厳格です。コーヒーなどのカフェインを含む飲物は公演のある日は摂取しない。指が震えるそうです。皆さん明るく楽しい方ばかりでサービス精神旺盛。随分楽しませていただきました。食事を終え一旦ホテルにて休憩。ヴェヒター氏は自分のパートを練習するため眺めの良い道路側の部屋をキャンセルし、静かな部屋を希望。ピアノのヒロコ氏は弦楽器の方々より一時間早くリハーサルのためホールに到着。ピアノは持ち歩けないので練習するのも大変です。
 五時からリハーサル開始。先程までの和気あいあいムードと打って変わって、緊張感がみなぎります。なにやら険しい顔をして楽譜に書き込んでますが、後から聞いた話によると、ホールの響きによって微妙に弾き方を変えるのだとか。研究熱心に頭が下がります。スゴイ!
 そしていよいよ本番。甲南のホール、プララにウィーンの音が響きます。ドボルザークのピアノ四重奏曲。メインのシューベルト『ます』。ホールの響きが良くないことなど忘れさせる名演。私など『ます』の最終楽章終盤には「もっとこの音楽と出会っていたい。もうしばらく会えないのか」と恋人との別れを思う気分になったものです。
 そしてアンコール、J.シュトラウス『ピチカートポルカ』と『春の声』誰もがどこかで聴いた楽しい曲で、思わず笑みがこぼれます。拍手拍手拍手.....
 終了後じゃがいもにて夕食。お昼は控えめな食欲でしたが、夕食はあれよあれよという間に料理がなくなっていきます。「私たちはコンサートを終えるとホッとして一気に食欲が増すのです」とはヴェヒター氏の言葉。彼らのお腹を見ればそれも納得。友人のTさんなど、「みんな同じようなお腹をしていた。」演奏中に観察していたのだ。
 水口のホテルに宿泊した彼らは、翌日早朝甲南駅より金沢に向かって出発。ローカルな甲南駅にドイツ語が飛び交います。去りゆく普通列車の車窓から、彼らは最後まで笑顔で手を振ってくれています。彼らが甲南のホールで演奏した音楽はその一瞬で空間に消え去りましたが、じゃがいもの壁に残されたサインと共に、私の心の中にいつまでもきら星のように残ることでしょう。
 また来て下さいよ!_
(投稿:吉村一「じゃがいも」のマスター)

【公演データ】
ウィーンフィルのメンバーによる
室内楽のコンサート
会場:甲南町、忍の里(しのびのさと)プララ
曲目 F.シューベルト:ピアノ 五重奏曲 イ長調『ます』Op.114 D.667 他
10月28日(月)18:50開場19:20開演
主催:ウィーンの室内楽を忍の里で聴く会
彼らが甲南のホールで演奏した音楽は
その一瞬で
空間に消え去りましたが・・・


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