『 ハード・ラック』


Hard Luck (1921)

出演:バスター・キートン、ヴァージニア・フォックス、ジョー・ロバーツ
監督・脚本:バスター・キートン、エディ・クライン
製作:ジョセフ・M.スケンク、コミックフィルム作品、メトロピクチャーズ配給
   上映時間19分 公開日1921.3.16

【あらすじ】
 「なんて、ついてないんだろう。仕事はクビになるし、彼女には振られる。しょうがないから靴磨きでも、と思って我慢して磨いてやったらそいつは金も払おうとしない。もうこの世の中がほとほと嫌になった」と、バスターは自殺を決意。いろいろと試みるが、やはり、ついてない。電車に轢かれたくても、電車が手前で止まって折り返し運転してしまうし、公園で首を吊ろうとしても、目撃者が警察に通報して邪魔される。一体どうすれば望みどおり死ねるんだろうと考えながら通りかかったレストランの裏窓、棚の上に「毒」がある。これだ!とばかり服毒するが、いっこうに死なない。実は毒というのはラベルだけ、中身はウィスキーだった。酔っぱらって気分が良くなったバスターは隣室で行われている動物園長主催の会合に出席。園長の「アルマジロを捕獲できる者にたんまりと賞金を出す」という一声に、自分がやる、と名乗り出た。
 野生動物を捕獲するのは、自然のなかでの気の長い勝負。まずは腹ごしらえ、と釣りを始めるバスター。次第に大きくなる獲物にいよいよつきが回ってきたかと、しばし思う。釣りを終えて、歩いていると目の前をアルマジロらしき動物が横切る。今だ、とばかりライフルをぶっ放すが、構えが逆だった。
 近くのカントリークラブ、紳士淑女が狐狩りへ出かけるところ。騎乗できずに困っているお嬢様風のヴァージニアを見かけたバスターは、これは出会いのチャンスかも、と手伝うことにする。案の定、ライフル持参のバスターは狐狩りに誘われた。途中で、はぐれて一人遅れて戻ってくると、クラブハウスは“トカゲ唇のリューク”率いる強盗団に襲撃されていた。バスターはヴァージニア救出に見事成功。その勢いを借って彼女に求婚することにした…。

【かいせつ】
キートン本人が最も気に入っていた短編といわれていたが、公開当時の記録以外は、ネガ、プリントともに長期間失われていた作品。1980年代後半、偶然に東欧(チェコ?)でプリントが発見され、映画史家のケヴィン・ブラウンローとサミュエル・ジルが当時のスクリプトを基に復刻を果たし、今日の再見にいたった。キートンの旧作復刻に尽力した故レイモンド・ローハーワーの遺志によるが、おそらくローハーワー本人はこのリニューアル版を見ずに他界したと思われる。発見されたプリントはラストの約3分間が修復不可能なために説明的な字幕とスチールによって再構成されているが、粗悪な画調の中でも一貫したキートン流の喜劇論は認識できる佳作。

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