『キートンの北極無宿』


The Frozen North (1922)

出演:バスター・キートン、ジョー・ロバーツ、シビル・シーリー、ボニー・ヒル
監督・脚本:バスター・キートン、エディ・クライン
製作:ジョセフ・M.スケンク、バスター・キートン・プロダクション作品
   ファーストナショナル配給
   上映時間16分 公開1922.8. 日本劇場未公開

【あらすじ】
 大雪原の真ん中に地下鉄の駅がある。その出口から出てきたバスターの出で立ちは、カナダの騎馬警官隊員役を演じる時のウィリアム・S.ハート(西部劇スター)風だった。雪原を歩いて通りかかった酒場、窓から覗くと酒あり博打あり踊り子ありで、いかにもなウェスタン酒場。なぜか無性に西部劇でよくあるような強盗をしたくなり、実行に移すが結局うまく行かず、近くの我が家に帰ることにする。家に入ると、暖炉の前で妻が男と愛を囁いている。最愛の妻の裏切り…なんて悲しいんだ、という感情はすぐ憎しみに変わり、二人を撃ち殺してしまう。しかし「よく見たら自分の家じゃない、こりゃまた失礼」とその場をあとにする。本物の我が家では、本物の妻が愛情たっぷりに迎えてくれるが、バスターは冷たくあしらう。妻は泣き叫び、取りすがった十字架が頭に落ちて卒倒する。女の叫び声を不審に思った警官が様子を見に来るが、抜け目なくごまかすバスターだった。
 狡猾で好色な人間になりきっているバスターは、今度は隣の若奥さんに目を着ける。隣の家では夫が単身で出張する予定だったが「バスターのようなのがいる限り安心できない」と二人で出発することにした。犬橇で目的地に向かった二人の後をバスターが追う、その嫌らしい執念深さは、まるで『愚かなる妻』(1922)のエーリッヒ・フォン・シュトロハイムのようだった…。

【かいせつ】
キートンには珍しいパロディのオンパレード。だが今では少々わかりづらいのが残念。当時人気の西部劇スター、ウィリアム・S・ハートの出で立ちで登場するキートン。ハートが必ず一作中に見せる男涙をギャグにしたため、この後しばらくハートから断交されたという逸話もある。テーマは同時代にヒットしたドキュメンタリー『極北の怪異』からとされ、劇中のプロシア将校はエリッヒ・フォン・シュトロハイムのモノマネ。シュールでキッチュな展開のみオリジナル。

<次のページ> <上映作品リスト> <全作品リスト> <表紙>