『馬鹿息子』


The Saphead (1920)

出演:バスター・キートン(バーチ・ヴァン・アルスタイン) 、ウィリアム・H.クレイン(ニコラス・ヴァン・アルスタイン)、アーヴィング・カミングス(マーク・ターナー)、キャロル・ハロウェイ(ローズ・ターナー)、ビューラ・ブッカー(アグネス・ゲイツ)、エドワード・アレクザンダー(ワトソン・フリント)、ジェフリー・ウィリアムズ(ハッチンズ)
監督:ハーバート・ブラッシュ
脚本:ジューン・マティス
原作:W.スミス&V.メイプス 小説The New Henrietta
ブロンソン・ハワード 戯曲The Henrietta
製作:ウィンチェル・スミス
提供:ジョン・L.ゴールデン、ウィンチェル・スミス、マーカス・ロウ
製作配給:メトロピクチャーズ   上映時間71分 公開日1920.10.18

【あらすじ】
 ニューヨークの金融街――大物投資家ニコラス・ヴァン・アルスタインは、The Old Nick of The Street金融街の長老ニックとしてその名を馳せていた。ニックの事務所をアリゾナ在住の友人ジム・ハーディーが訪れた。彼の情報によれば、ヘンリエッタ鉱山会社が近々大きな鉱脈を掘り当る見込みらしい。ジムを信頼しているニックは、ヘンリエッタ鉱山株に大規模な買いを入れることに決めた。
 ニックの娘婿マーク・ターナーは、まともな仕事の依頼が殆ど来ない金融ブローカーだった。彼の事務所に元愛人で踊り子のヘンリエッタ・レイノルズから手紙が届けられた。手紙の内容は、重病で生活に困っているので会いに来てほしい、というものだった。マークは「一両日中に連絡するから」と言って使いの娘を帰した。そのすぐ後に訪ねてきた妻のローズに、マークは、「いま仕事がなくて困っている。お義父さんのニックが自分に仕事を任せてくれれば助かるんだが」とこぼす。ローズは父親に頼んでみることを約束した。ローズが帰ったあと、マークは自分の手紙をヘンリエッタのところから取り戻せないかどうか画策した。
 ニックの大邸宅――都会のお城。ニックの期待を受けた息子バーチ・ヴァン・アルスタインが、午後のひととき遅い朝食を食べている。別室の書斎では、ローズが事務所から戻ったニックに、マークに仕事を回すよう頼んでいる。娘に甘いニックは承諾した。
 バーチは、ニックが身元引受けをしている孤児アグネスのことを何年も前から愛していた。が、なかなか打明けられずにいた。そのことを知っている姉のローズは、アグネスが学校を卒業して今晩6時30分着の列車で帰ってくることをバーチに教えた。しかし、ローズは弟の最近の生活態度が気がかりだった。夜遊びしたり、ヘンリエッタという踊り子の写真を部屋に飾ったり。そのことをバーチに問いただすと、彼は『モダンガールをモノにする方法』という本を姉に見せる。その本によると、最近の女の子たちは聖人君子より遊び人を好む、とある。バーチは遊び人になってアグネスの心をつかもうと考えたのだった。
 その夜、バーチはアグネスが到着する時刻に駅まで迎えに行った。しかし、到着のホームを間違えた彼はアグネスを迎えることができなかった。一人でニックの邸宅に帰ってきたアグネスは、バーチに会えるのを楽しみにしていたが、小間遣いの娘に彼がいつも朝3時にならないと戻らないと聞かされ心配になる。
 一方駅で悪友たちに捕まったバーチは、そのころ繁華街の賭博場へと繰り出していた。ルーレットでいくら勝っても退屈なバーチ。疲れて帰ろうとするところへ警察のガサ入れが入った。そのどさくさのなかで彼は新聞記者に名紙を渡してしまった。
 翌朝のニューヨークタイムスには「賭博場の強制捜査で名家の子息たち警察に連行さる、ヴァン・アルスタインの息子も現場に」という大きな記事が載った。バーチの部屋で事情を聞くローズ。アグネスが入ってきたので遠慮して場を外す。バーチは彼女に想いを告げる、善良な自分は嫌われるんじゃないかと思って遊び人になろうと努力したけれどダメだったこと、など。ヘンリエッタの写真も買っただけで本人には会ったことがないと言う。その時バーチはニックに呼ばれる。新聞記事を見て怒ったニックは息子を勘当することに決めたが、アグネスが息子と一緒になる意志があるのを知って、彼女が不自由しないようにと大金を息子に渡した。
 リッツホテルの一室に引っ越したバーチは、金融ブローカーに成ることを決心し、信頼できるブローカーのワトソン・フリントに相談する。その後訪れたアグネスに証券取引所の椅子を10万ドルで買ったことを話す。そして、婚約指輪を彼女にプレゼントし、二人は結婚を認めそうもないニックを無視してでも、次の火曜日に秘密の結婚式を挙げることを約束した。
 約束の夜、逃げるように家を出ようとするアグネスを見たローズは事情を聞いて、ニックに頼んでこの家で結婚式が出来るように取り計らうから安心するように言った。窓から入ってきたバーチと父親も和解し、牧師も呼んで式の準備が整ったその時、ヘンリエッタとマークの間に出来た娘がその場に現れた。ヘンリエッタの遺言どおり、遺書とマークからの手紙の束をローズに渡し、彼女から援助を得るために来たのだった。咄嗟の判断でマークはうまく立ち回り、その場にいた人達にその娘の父親はバーチだと誤解させることに成功した。ローズの気持ちを考えたバーチは、一切自己弁護をせず責めを負い、父親に追い出されるまま、一人家を後にした。
 ヘンリエッタについての真実がいずれ明るみに出ると考えたマークはそうなる前にニックの財産を全て自分のものにしようと考えた。すなわち、ニックの留守中に彼が大量に保有しているヘンリエッタ鉱山株を大暴落させて、自分が安く買いたたこうと計るのだった…。

【かいせつ】
ブロードウェイのステージにてダグラス・フェアバンクスの初演で大ヒットした戯曲。映画化も当初はフェアバンクス主演の予定だったが、 折り合いがつかず降板、キートンの起用となった。フェアバンクスは自分以外でこの役をこなすのはキートンだけであると確信していた。この映画版(つまり本作)では映画的なアクションは見られないが、フェアバンクスもキートン同様にヴォードヴィルから超絶体技で人気を得ていたスターなので、ひょっとしたらステージのみ奇異なアクロバットを行っていたかもしれない。このフィルムも1978年に発見されるまで行方不明となっていた。故レイモン・ローハーワー復刻による初期カラーの再現が美しい。

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