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H.V.S通信 vol.55 2002年(平成14年)9月



vol.55-21
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ライジング・サン・ロックフェスティバル
 
  ライジング・サン
ロックフェスティバル
・・・2日目、
8月17日

 ライジング・サン・ロックフェスティバル(2日目、8月17日)に行ってきました。北海道 の石狩港で昼の1時から翌朝6時まで、奥田民生、UA、元ちとせ、東京スカパ ラ、忌野清志郎&矢野顕子、ミッシェル・ガン・エレファントなど実に30種以 上のロックが聴ける一大フェスティバルです。夏とはいえやはり北海道は寒い !長袖ラガーシャツに上下のウインドブレーカーで固めた体にも容赦なく寒風 が突き刺さります。貧乏性の私は全バンド制覇をもくろんだものの、寄る年波 に勝てず開始8時間後にダウン。あとは通路にレジャーシートを広げ、少し参 加しては横になって休む、ということを繰り返して夜をすごすことになりまし た。エゴ・ラッピンのライブをBGMに寝ると言えばぜいたくではありますが、 それに浸る余裕もなく「寒い〜、寒い〜」とつぶやきながら寝るというのはな かなかにきつい体験でした。

 今回一番のインパクトは井上陽水とゴーイング・ステディのステージ。どち らもまともに聴くのは初めてですが、強烈な印象と余韻を残してくれました。
 井上陽水は、なんと言っても抜群のボーカル力!「歌」がめちゃめちゃリアル に届く。はっきりした声で、はっきりとした歌詞が、はっきりとメロディーに 乗ってだだっぴろい会場全体に響く響く!1曲目の、どブルースナンバー(そう なんよな、よく考えたらこの曲は、どどブルースなんやな)『傘がない』が始 まった頃、私は隣の会場でアイヌ料理の鹿汁をすすっていましたが、そこまで バシッと歌が突き刺さる!こりゃいかんと急いで移動したがすでに遅し。2曲 目の『アジアの純真』が始まる頃にはこのフェスで最大と思われる人 の集まりがパニック状態を作り出していました。
 他の出演者と決定的にちがうのが彼の「喉」。優れた曲をわかりやすく、 しっかり届かせることの出来る声を持っていました。素人(私自身陽水のCD を聴いたことがない)を単純に「うおぉ!すごい!」と思わせる歌声と曲。こ のわかりやすさ!
 彼のステージを見て以降、空前の活況を生み出している日本のロック事情の最大の弱点は、この「喉」不足にあるのではないかと感じはじめました。圧倒 的な作曲能力と何でも飲み込む的確なアレンジを形にする音楽センス、この2つなら、今、日本では豊かな 才能が続出している。今回のフェスでも素晴らしい音楽をやっているバンドは いくらでもいた。しかし、その曲やセンスに声が追いつかない、その曲をしっ かりと多くの人に届けるだけのボーカルがない、そんな物足りなさをこの日以 降、特に強く感じています。
 もちろんロックは「自分(たち)で作った歌を自分(たち)で歌う」という のが基本だから、多少ボーカルが弱くても発表してしまうその態度も全く正し い。きっと歌声というのは音楽の中でもっとも原始的で、それゆえに素晴らしい才能が生まれるのもえ、彼のステージを、努力して上達するのも一番難しいパートなのでしょう。それもわかる、わかるんだけど、彼のステージを見てからというもの 、今のロック状況を喜ばしく思いつつも、何かどんどん映像はきれいになる のにソフトが追いつかないデジタル放送のようなもんやなぁと感じてしまう部 分が出来てしまいました。恐るべし井上陽水。
 もちろん陽水はその「喉」と同時に優れた作曲能力を持っています。決して奇 をてらった曲ではないのにインパクトもある。「あぁこれがスーパースターと いうものなんやな」と思います。イチローのように攻走守三拍子揃ったロッ ク。「普通の人」が弾けるロックも、変人による少しひねくれたロックも大好きだけれど、やっぱり「スーパース ター」にはそうなるだけの理由があるのだなと感じました。

  一方ゴーイング・ステディ。これはまったく別の伝わり方をしました。彼らの音 楽はあまりにも若くて青くさくて、しかも音楽としてはラウド系というのか、 とても共感できるものではありません。ボーカルもサウンドもあまり好きなタイ プのものとも言えません。しかし彼らにはそれを補うめちゃくちゃな「度の超 し方」があった。それは叫ぶとかの単純なものではなく、恐ろしいまでの「ダ サさ」。つたなくも揺れる体の動きから東北弁丸出しで内容もあまりにス トレートなMCから、もう、だっさださ。でも、これが効くんだわ。ズバズバ 入ってくるんだわ。いつのまにか目には涙が浮かんでたんだわ。
 『童貞ソーヤング』という曲をヒットチャートに送り込んだ彼らゆえ、MC も曲もその手の話が多くありました。好きな女の子の「現実では絶対しちゃい けない」と思う光景を想像しながらオナニーをし、終わった後でものすごい後 悔にさいなまれる「明るくない男の子たち」。そしてそんな男の子がはじめて 経験したセックスの相手への、恋愛も劣情も感謝もごっちゃまぜになった想 い。それらを「とにかく伝えたい」という気持ちがバンバンに感じられるMC と曲に乗せて続くライブ。こちとらもう妻子がいるんやぞ、と思いながらそれ らを見ていると不思議に涙が流れていました。ちきしょー!泣かされた!

 この「度を超す」というのは、出来そうでなかなかにむずかしいことです。 彼らはもちろん叫んだし、爆音をならしましたが、そんなことはもはや誰もが していること。なのに彼らはビンビンに伝わる「度の超し方」を持っていた。 具体的に何で伝わったのか私自身分かりませんが、原因はとにかく爆音なんか ではなかった。同じようになぜか心をかき乱された斉藤和義のライブでも感じたことですが、無意識にふと閉じて しまう目の動きとか一定のストロークを力強く続ける手とか、もっと静的なも のから彼らの気持ちは伝わったんじゃないかと思っています。それを広大なス テージから伝えたとしたら、彼らの気持ちもハンパじゃないなと思いました。  私も年をとってきて、高校生の時のように「おお!俺には全然思いつかない 音楽や!」と思うような、閉じている目を無理やり開けられるような音楽体験 がなくなりつつあります。そこに彼らは無理やり割りこんでくるようなライブ をかましてくれた。「それはオマエが目を開ける体験を自分で避けてたんだろ うが!」と言われた気がしました。彼らの気持ちは、こんなおっさんにも 「ちゃんと届く」ライブだった。彼らは陽水のように「最高の形として出す」 ことはできないけれど、あまりにも一途に「度を超す」ことで伝えてくれました。
 もちろん他にもいいライブがありました。このフェスの顔とも言えるミッシェル・ガン・エレファントと同時刻、すなわち「裏」になった中、異常なテンションで盛り上がったピールアウト。どの曲を歌ってもいっしょに歌う観客 が誰よりも多く見られた斉藤和義。超絶テクニックとノリでラーメンを食べて いる箸を止めさせたPE'Z。“ロック”ではなく大好きな初期“ロックンロー ル”をならすNEATBEATS。見た後で誰もが笑顔になってしまったデキシード・ ザ・エモンズ・・・しかし、やっぱりフェスは一人で行くもんではないです な。ましてや夜通しの長期戦に一人で行くのはつらい・・。ということで、 宿が確保できるROCK IN JAPAN フェスに来年は照準を定めようと考えていま す。誰かいっしょに行きません?
 以上、報告まで。
(HVS 井上陽平)
奥田民生
UA
元ちとせ
東京スカパ ラ
忌野清志郎&矢野顕子
ミッシェル・ガン・エレファント
エゴ・ラッピン
井上陽水
ゴーイング・ステディ
ピールアウト
NEATBEATS
デキシード・ ザ・エモンズ
               


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