碧水ホール・インタビュー1997
仙頭直美監督(旧姓河瀬)
公開インタビュー
企画上映「プライベート・ムービー〜私のまなざし、私の記憶」初日にて
日時=1997年11月29日(土)15:30〜16:30
会場=碧水ホール
録音=津田春吉(碧水ホール・音響)
進行・載録=上村秀裕(碧水ホール・学芸員)
1.コメント▼2.結婚しました!▼3.『萌の朱雀』のこと
4.『杣人物語』8ミリによる表現▼5.観客からの質問▼6.観客からの質問-2
4
___それで、実は『萌の朱雀』撮られたあと、いろんな映画祭からの招待のはなしがあって、でも、ちょっとひと息つける時間があったんですよね?そのあと、『杣人物語(そまうどものがたり)』。
監督:あっ、そうですね。だからできあがってからカンヌまでは半年ぐらいあるんで、できあがったすぐあとは、まぁ暇っていうか(笑)、ゆっくり自分を、こう休ませてあげてた時期で、毎日おんなじ時間に事務所へ行って、おんなじ時間に戻って、ほんで事務所で溜まったゴミを庭で燃やして、犬の散歩さして、とかいう時間やったんですね。
ほんで、そういうことしながら、あぁ『萌の朱雀』の現場になった西吉野村の平雄っていう場所におっちゃんらがいて、ほんまにまだ生きていると、生活を営んではると、ほんでそこから得たものっていうのがけっこう多かったなと。現場中にも。彼らを私の目で、私のカメラで、とらえてみようかなぁ、というふうに思って。〈br〉
『萌の朱雀』が完成したのが10月で、次の月ぐらいから入り込んだのかな。
___『杣人物語』をぼくも観さしてもらって、山形の映画祭でのコンペでも観させてもらったんですけど、あの映画は監督がカメラマンとなって撮影されてて。8ミリでしたっけ?ビデオも使われてたと思うんですけど。
監督:デジカメも。
___デジカメで。
監督:えぇ。いちおう使ってまして。
___ビデオって初めてですか?
監督:えっとね。1コか2コぐらい前に、テレビの企画で1コだけデジカメで撮った作品があるんですよ。それが初めてといえば初めてですね。
___ビデオってどうですか?すごい使いやすいし。いいと思うんですけど。
監督:はい。あのね、難しいんですけど、すごい即興性がありますよね。ボタンを押してピュッと撮れるような。だけれども、撮れない光の方が多いんですよね。
___光?
監督:うん。私ね、物事とらえるときに、ここでしゃべってはる人の言葉とか、顔とかっていうのを撮ろうとしているよりも、光を撮ろうとしてるんですよ。
山のおっちゃんらを撮るときに、土間から障子を伝って畳越しに入ってくるような淡い光とか。そこの中にたたずむ人とか。山あいを風がずーっと撫でていって、曇が流れていくから山に光が当たるところと当たらないところがずーっとできていくみたいな。そういう山の表情とかもね。
ビデオだと、そのデジカメでもすごい再現力があって、ベータカムと言われるような業務用のカメラとさほど変わりない解像力があると言われつつも、やっぱりねぇ、白は白く飛んじゃうんですよ。白としてね、きっちりと定着されていかないんですよね。ほんでそこの前にいる人物が、どうしても光のエッジのギザギザ感の中にしかいられないですよ。画面の深さがないというか。なんでね。
___それはもう、やっぱり8ミリの方が表現しやすいと。
監督:そうですね。そういう部分においてはね。
___ただね。8ミリ上映できるスペースがね(笑)、なかなかなくって、器材もないんですよね。だから今回最終日の『陽は傾ぶき』も8ミリ作品なんですけど、16ミリにしていただいて。
監督:はい、上げます。もう、オリジナル・・・。初めてで、初号のやつをたぶんかけることになるんで。ニュープリントですから、ぜひぜひこの機会に観ていただけたらと。
___いちおう封切になりますんで、16ミリ版では(笑)。
監督:『陽は傾ぶき』っていうのを『かたつもり』のあとに撮ってるんですよ。『かたつもり』『天、見たけ』『陽は傾ぶき』って撮ってんねんけど、『天、見たけ』『陽は傾ぶき』っていうのは、あんまり世の中に出てないんですよね。そのあと、すぐに『萌の朱雀』にいってるっていうふうに、だいたいは報道されているので。闇の作品(笑)ですね。
___今回上映するほとんどは、おばあちゃんの宇乃さんが主役的な作品なんですけども、初めて『かたつもり』を観たときビックリしたんは、顔がね、おばあちゃんの顔がね、画面からはみ出るぐらいのアップなんですよ。あれはちょっとすごいなと思って。どこまで近づいて撮ってはるんですか?
監督:カメラのマイクがここ(頭)に当たるぐらい(笑)。
___(笑)時々当たってボコッとかいうて。
監督:いたーっ、とか、ボコッとかいって(笑)。
___あれはもう無意識にそこまで寄ってるんですか?
監督:無意識ではないんですよね。やっぱり意識して、いってますけどね。
___息がかかるぐらい・・・。
監督:うん、そうですね。
___でも、やっぱり、それは身内の人やないと、なかなか・・・。
監督:そうですね。でもそれはもう『杣人物語』を観ていただくと、一歩成長した私があると(笑)いうのがあって。
それまでは今言われたように、おばあちゃんというような、自分にとっての家族なんで、そらそんだけ近づけて当り前やというふうには言われていたと思う。そういう部分もあったと思うんですけど、私自身としては、それは違ったんですよね。むしろ、家族である人の方が、実は普段からあんまり近寄れない。
自分の母親なり父親なり、私にとったらおばあちゃんという人に、実は真っ正面を向かって「おはよう」の言葉も言えない日もあったりする。そういう中で、カメラというものを介して近づけたというのはですね、自分にとったらすごい事件なんですよね。
そういう意味では、他人よりも怖い存在という身内をそのような近距離で撮れたっていうことは・・・私は他人とか身内とかっていうことに限らず、自分以外は自分じゃない人なわけだから、自分の感情を100パーセント理解してもらってはいないとは思うし、相手の感情も100パーセント理解できてないかもしれない。だけど、こう、繋がり合いたい、というような欲求とかを全部自分の心をオープンにして見せていくってことで、何かが生まれるんじゃないかなっていう、勇気にも似たことがありまして、それができたことで、私は人と関係をそのようにして持っていけるんだというふうなことがわかって。
で、村のおっちゃんとかおばちゃんにも同じように近づけていけてるというようなのが『杣人物語』だとは思ってるんです。
だから私にとっては、これまでは身内を撮ってたのから、ひとつ外に出て、言わば血の繋がりのない、まったく生活をともにしたこともない人をとらえることが『杣人物語』における自分のひとつのチャレンジやったんですよね。
___カメラを日常の中で回すわけですけれど、いきなり持っていったら、あんなん撮れませんよね、たぶん。と思うんですけど。
監督:そうですね。うん。
___そこまで持っていくのに、どういう・・・、なんていうのかなあ。
監督:あぁ、村のおっちゃんとかおばちゃんとか、その全然知らん人を?
___そうそう。
監督:えっとですね。カメラを武器にしちゃぁいけないんですよ。
私は映画を撮りまっさかいに撮らしてくれますかぁ?みたいな感じでいっても、その人は絶対構える。いつもの自分ではありません、ということですよね、それはね。で、腹わって、心オープンにして付き合ってもらえるというのは、たぶんカメラを回す以外のときなんじゃないかなと思ってるんです。ほんで、映画を撮るってことがそんなに偉そうなことになっちゃぁいけないと思うんですよ。
もっと大事なことは、うーん最近言ってるんですけど、愛やなぁと(笑)思うわけですよ。愛情というか、もうそのカメラで記録することが目的じゃなくってね。その人と関係を持ちたいからとか、その人ともっともっとふれあいたいからとか、そういう感じのことから始めるんです。
だから、カメラは、まぁ、なんかあるかもしれへんのんで持っていく。けれども、最初は山あいの村やったとしたら、魚とかないわけじゃないですか。ほんなら街やったらなんぼでも売ってるような魚っていうので、割と新鮮なものを買っていって、一緒にさばいて食べるとかですね(笑)。そんなふうにして彼らの生活の中に、自分が溶け込まさせてもらうみたいな感じでいくんですよ。
それは時間かかりますね、やっぱり。私は『萌の朱雀』の準備の段階から、そういうふうに村の人と付き合ってきたつもりなんで。それで『萌の朱雀』の終わった時点では、彼らっていうのは、映画監督さんじゃなくって、もう直美ちゃんなんですよね。そういうとこから始める。だからこそ『杣人物語』というタイトルをつけてるドキュメンタリーなんですが、私の中に一度入ってきた関係を紡ぎ出す物語、というような作品なんですよね。
___じゃあ、そこで、もう河瀬さんと被写体の人との関係がいい感じでコミュニケーションができてないと・・・。
監督:そうですね。そやから、自分としては、河瀬・・・、そのときやったら河瀬直美が・・・。
___ごめんなさい、ついつい(笑)。
監督:(笑)河瀬直美が、直美ちゃんとして彼らと付き合ってる部分と、撮りたいと思うものを撮ろうとする作家というか、作家河瀬直美とふたり存在する。しなきゃいけない。ということを、かなりのテンションの高い状態で、自分を演じるというか、そういう部分もなくてはならないという精神状態ですね。
___あのねぇ、きょう上映した作品もそうなんですけども、監督は、ぜったいに自分の映画に体とか顔とかが映ってません?『杣人物語』も映ってたと思うんですけど。
監督:そうですね。うん。
___『萌の朱雀』も出てませんでした?
監督:『萌の朱雀』は一瞬出てる(笑)。
___出てますよねぇ。たぶん。ねぇ。
監督:(笑)
___絶対出ますねぇ。あのう、みなさん探してください、ぜひ今度観られたときに。
監督:『萌の朱雀』観て見つけた人いますか?(笑)
___見つけた人います?
監督:いないですよね。やぁそうですよ。あれは見つからないと思うな。
___じゃあ、どのシーンかは言いません。
監督:もう1回観てください(笑)。
前のページ●このページの先頭●つぎのページ
●碧水ホールボランティアスタッフのホームページへ戻る