碧水ホール・インタビュー1997
仙頭直美監督(旧姓河瀬)
公開インタビュー
企画上映「プライベート・ムービー~私のまなざし、私の記憶」初日にて
日時=1997年11月29日(土)15:30~16:30
会場=碧水ホール
録音=津田春吉(碧水ホール・音響)
進行・載録=上村秀裕(碧水ホール・学芸員)
1.コメント▼2.結婚しました!▼3.『萌の朱雀』のこと
4.『杣人物語』8ミリによる表現▼5.観客からの質問▼6.観客からの質問-2
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___そしたら、これからお客様からの質問コーナーということで。いってよろしいですか?監督。
監督:いいですよっ、はい(笑)。
___そしたら遠慮なく、手を挙げてください、当てますんで、ぜひお願いします。そしたら、そちらの青い服のシャツの方。
観客:萌の朱雀っていうのは、どういう意味なんですか?
監督:萌はですねぇ。萌え黄色の萌で、淡いグリーンの感じで、若葉が芽生えるときの感じを現わしてるんですけど。うーん、すごい生命力あるじゃないですか。その色がすごい好きなんですよ、わたし。ほんで、そういったね、まだ小さいんだけど、これから息づいていく命っていうものの強さを、ちょっとそのへんで表現してまして。わかりやすいのは朱雀のほうなんですが、南の山を司る神さんなんですね。朱雀神(すざくしん)っていう。中国の四神に乗っ取ってるんですけど。吉野山脈が奈良県のなかでは南の山脈で、朱雀の神さんがおるということとして、朱雀の神さんの目線で彼らをとらえているというようなことなんです。
___はい、ありがとうございます。えぇ、じゃあ次の方。はいっ。
観客:(マイクが届いていなかったコメントの部分は録音できていなかったため、載録しておりません。なお、このコメントは1997年10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭コンペティション部門で上映された河瀬直美監督最新作『杣人物語』を観た印象から始まっています。)・・・あのう、荒い感じだったり、それから何かこう、カタカタカタっていうキャメラのまわる音がしてたり、それが多少気になってたんですね。ところがだんだんだんだん河瀬さん自身が問いかけながら、村の方たちの、ほんとに素直な、今おはなしになったからよくかわりましたけれど、構えのない本音の村のひとたちの思いっていうのが出てきて、もう観てるうちに、もうほんとに観てるほうが吸い込まれていくくらいで。最後がまたすごく良くって、老いた村人のひとりで、お母さんのために自分の恋人にも断わって、お母さんとともに暮したって言ってた。その老いた村の人の顔に若いときのポートレイトがオーバーラップして、その方の人生が、もう、ほんとにこっちの胸に迫ってきました。あれはすばらしい作品でした。ありがとうございました。
監督:ありがとうございます。
観客:で、『萌の朱雀』なんですけど、最初に山が、それこそ緑の山が風にすーっとそよいでますけども、あれは、どこからどういうふうに撮られたんですか?まるで俯瞰してるみたいで、あの出だしがすごく良かったんですけど。
監督:まず、『杣人物語』ありがとうございます。『萌』のオープニングで、テレビとかでもよくオープニングのタイトルがパッと浮かんでくるあの映像のことを言われてると思うんですけど、あれはその山あいの、うーん、どういう山かっていうとですね。まぁ、山の中なんですよね。その対面の山をこちら側から撮ったみたいな感じなんですけど。たぶん、よく見ると、もしかあれが写真で良く見ると、水平の位置で撮っているんです。そう見えてしまうのは、たぶん、それは田村さんマジックだと思います。
観客:あぁ、そうなんですか。
監督:それがですね、映画の魅力だと思うんですよ。その目で見てる部分と、もうひとつ耳で聞いてる音と、それでイメージ。それまでの自分の人生体験が相まって、そのものがそのように見えるというのが、きっと五感を働かした見方というか、物事の見え方のおもしろさだと思うんですよね。だから、田村さんがあの画をものすごく奥行きの深い、鳥の目だというふうな形で認識されて撮られてるところが、そのように映ってると思うんです。実際は同じ目線でカメラはあるんですけど。
観客:河瀬ワールドでの、なにか次回作は恋の物語とかって読んだんですけど。河瀬さんなりのそういう次の映画をすごく期待しております。
監督:はい、ありがとうございます。
___ありがとうございます。では、次の方どうぞ。あっ、多くなりましたね。えっと、もう1回挙げてもらえますか?
監督:あの女の子!
観客:たわいのない質問なんですけど、『かたつもり』の中で、おばあちゃんが「直美ちゃんはおばあちゃんのこと好き?」って聞くとこがありますけど、あれは宇乃さんが自発的に語られた言葉なんですか?
監督:そうです。
観客:それは、普段からそういうことを聞かれるんでしょうか?
監督:うーんとね、「何かはなししてっ」て言うてはなししたんですよね、あれはね。そしたらあんなん言いだしたんですよ。で、私は言葉に詰まってしまった。そのまま使いました。はい。
観客:ありがとうございました。
___映画撮ってるときは、もうテープは流しっぱなし、とか。
監督:そうそうそうそう、そんな感じです。もうふたりでいて、テレビ見てるときにも、ピュッともうすぐそこに機械が置いてあって、ピュッて録音ボタン押すだけぐらいの感じで。で「なんかしゃべってよ」みたいな(笑)。
___ずうーっと流した中の一瞬なんですね。
監督:そうですね。
___じゃ、次の方どうぞ。はい、そちらの方。
観客:映画祭以来、取材をいろいろなところで受けられてると思うんですけども、自分が撮る側から、今度は撮られる側に立った場合に、何か新しい発見はあったんでしょうか?それから、何かあったとしたら、これから作品をつくっていくうえで、どういったふうに生かされていくんでしょうか?
監督:はい。なんか、写真で撮られるとかっていう部分とか、あとテレビに映されるという部分とか、じゃなくってですね。その写真の部分は付随している部分だと思うんですよ。
取材量が増えたということは、『萌』なら『萌』という映画に関して質問される時間が増えましたね。そうすることで、私がこのようにして答える時間が増えたんですよ。ということは、自分のつくった映画に対して、考える時間が増えていってるわけですよね。すると、自分自身ではっきりとクリアにわかっていなかったことが、ものすごくクリアになってきたんですよね。それが、必ず次の作品に生かされるだろうなって思えてることですね。
なんか、たとえば、そうやなぁ、「『萌の朱雀』ってどういう意味なんですか?」って言われたりとかしたときも、最初のころはあんまり、よう答えんかったっていうのがあって。今でもそんなにはっきりは言えてないかもしれへんのですけれど。まぁ、それはそれでいいんじゃないか、ぐらいの感じをね、私の中で持ってるわけですよ。
一生懸命、「やぁ、タイトルの意味わからなあかんねやろか」っていうふうに考えてる自分から、「まぁ、いいでしょ」(笑)というぐらいの。そういう、何がしかの自分の中での自信なんですけどね。「うん、それはそれでいいでしょ。これだけじゃないんだから私の映画は。」っというような。「次も観てね。次もやるからねっ。」(笑)って感じとかね。
「田村さんの画はどうでしたか?」とか、そういうのをいっぱい聞かれると思い返しますよね、自分の中で。いっぱい、いっぱい。それはね、ものすごく幸せなことですね。だって、それがあまり為されないのが自主制作だったりするじゃないですか。
せっかくつくっても、自分たちだけが宣伝してる限りでは、何人、とかの人しか観に来てもらえなくって。日本の人口にしてみたら、それはホントもう小指ほどの、世界の人口にしてみたらホント小指もないぐらいの人たちにしか観せていけない状況でしょう?もう、くやしくてくやしくて、みたいなところありますよ。
でも、それを乗り越えた部分で『萌の朱雀』がきっかけとなって、このように旧作も観られていく場所が増えるっていうのは、ホントありがたい。作り手にとっては何とも言いがたい幸せなこの場所の良さですね。うん。
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