碧水ホール・インタビュー1997

仙頭直美監督(旧姓河瀬)
公開インタビュー

企画上映「プライベート・ムービー~私のまなざし、私の記憶」初日にて
日時=1997年11月29日(土)15:30~16:30
会場=碧水ホール
録音=津田春吉(碧水ホール・音響)
進行・載録=上村秀裕(碧水ホール・学芸員)


1.コメント2.結婚しました!3.『萌の朱雀』のこと
4.『杣人物語』8ミリによる表現5.観客からの質問6.観客からの質問-2



       6

___よろしいでしょうか?はい、ありがとうございます。では、次の方。じゃあ、チェックの服の方、いきましょうか。

監督:いま直美さんは映画をつくってはるんですけど、今までにいろんな映画を観てきはったと思うんですけど、どういう映画に出会って、その中でどの映画が心に残ってますか?

___えーっと、18の頃に初めて映画をつくってから映画を観始めてるんで。それもね、学校の授業の中での映画とかがほとんどなんですよ。実は今でもあんまり、劇場に観にいくことは・・・、まぁ時間もないっていうのもあるんですけど、だから映画祭へ行って観ることが最近は多くって。一番最近は、劇場では国内じゃなかったような気がする(笑)。カンヌをとってみると、たとえば日本公開のタイトル『ブエノスアイレス』かなぁ。ウォン・カーウァイの。あと『テイスト・オブ・チェリー』、はテイスト・オブ・チェリーですか?日本タイトルは。

___観てないですねぇ。ちょっとわかんないですけど。

監督:あのキアロスタミさんの、パルム・ドールをとったやつなんですけど。

___あぁ。はいはい。
(『テイスト・オブ・チェリー』は、邦題『桜桃の味』で1998年1月下旬から日本公開)

監督:『うなぎ』しかあんまり日本ではわかられてないですけど(笑)。カンヌだけとってみてもですね、私の映画なり、『うなぎ』なり、その『テイスト・オブ・チェリー』が大賞をとっていくような、いまのこの時代っていうのはね、どうも、これまでの映画の既成概念からはずれてしまっているような、変わり目にあるんじゃないかなと思うんですよ。要するに、なんか人が消費社会のなかで失っていっているものをものすごくクリアに取り上げてて、それが物語性のなかですごく生きてるような映画が良しとされてきだしたんじゃないかというのがありまして。私自身も、今の時代がそうだからというんじゃなくて。わりとむかしから、商売のためにこんな役者さん使ってるから売れるやろう、みたいなことで成ってる映画よりも、切実に生きることを考えてるような映画とか、観ているだけで身じろぎできないような長回しのシーンがあったりするような映画が好きで、たとえばタルコフスキーさんとかですね。ほんで、ヴィクトル・エリセさんとかですね。そのような、目には見えないものをとらえようとしている人は、すごい好きですね。そういうものが、必ずあるということを信じ続けて映画と戦ってる人は尊敬できますね。

観客:ありがとうございました。

監督:はい。

___あの、いま変わり目があるとおっしゃって、まさに今回の碧水ホールでの特集上映っていうのは、それにひと区切りつけたいな、という意味が我々にもあったんですけど。

監督:あっ、はい。

___えっと、じゃぁリクエストカードをいくつか書いていただいておりますので、このなかから選ばしてもらいます。お名前はわかりませんが「監督の作風はおもに実体験に起因するものかと思われますが、映画などのフィクションで現在に至るまでの過程で、インスパイアされた作品はありますか?」ということですが、インスパイアされた作品・・・。

監督:それがね、あんまり映画を観ずに育ったものですから。(笑)ないことはないんですけどね。だから、いま言った人たち(アンドレイ・タルコフスキー、ヴィクトル・エリセ、アッバス・キアロスタミのこと)かもしれないですよねぇ。

___じゃぁ、もうひとつ、読んでみたいと思うんですけど。「まずは、河瀬監督にメッセージです。『萌の朱雀』観ました。言葉で言い尽くせない素晴しさでした。素晴しいとしか言えない自分がもどかしいぐらいです。これからも河瀬さんの世界をつくり続けてください。」ということでちょっと長いんですが、ここでちょっと省略させてもらって、「わたしは写真を撮るのですが、」、つたないものですが、とカッコ書きされてます。「照れや恐れが先立つことがあって、シャッターを切れないことがあるのです。家族、過去が特に恐ろしい。でも、まったくかかわりのない人には平気だったりして、風景も平気なので、このことを尋ねてみたかったです。」ということなんですけども。

監督:あぁ。さっき言うてたことやと思うんですけど。町なかに人や雑踏がバーッといて、たとえば、全然会ったこともない人にカメラを向けて、シヤッターを切ると。そうすると、刹那的な時間を彼らと共有するのみで、それ以降は会えへんから、簡単に言っちゃうともう、会えへん会えへん、というようなんで、恥も何もかもさらしてもいいのかもしれない、という逃げはあるかも知れないですね。そこの部分ではね。で、そういう気持ちで撮ってると、実は写真も映画も、つくり手の気持ちというのは、フィルムに焼きついちゃうんですよね、うん。ほんで、つくり手がですね、ほんまに切実にギリギリのところに立って、もう墜ちてしまいそうになるときに押したシヤッターっていうのは、実はブレててもですね、かなりなレベルで人に感動を呼ぶということは絶対ありますね。それこそ目に見えないものなんですけどね。人の思いというのは絶対あるということです。おんなじものを撮ってても、技術的に高くてクリアに美しく撮ってるものよりも、もしかしてブレてるものの方が真実かもしれないみたいなところは、絶対、表現の世界にはあると思う。思います。

___はいっ。じゃぁ、リクエストカードの方はこのへんで終わらせてもらって、また質問にいきます。お手を・・・。はいっ。そしたら、そっちの茶色い服の方お願いします。

観客:河瀬監督と呼ばせてもらいます。

監督:はい。

観客:監督の作品を何作かみせてもらってるんですけれども、わりと観念的な感覚を感じるんですよね。

監督:はい。

観客:その対局としてですね、たとえば、ちょっと俗な言い方をすると商業映画とか、あるいは娯楽映画、こういう感じの映画に対してですね、観念的といいますか。この前、先月ですか、テレビのニュースステーションにお出になられてて、あの、カメラの・・・。

監督:(笑)久米さんにいじめられたやつですね。(笑)

観客:そうそう、あれ拝見してまして、被写体と自分との間の空気とか、臨場感とか、そういったものを表現したいとか、いろいろおっしゃってまして。久米宏さんに、「監督の言われている1万分の1しか理解できない」とかって(笑)、けっこう皮肉に言われてらっしゃいましたけれど。久米さんでなくても、まぁ私自身もですね、監督の作品を見てまして、非常にその、さっきからも言ってるように観念的というますか。さっきも名前がでましたタルコフスキーなんかも、やっぱり超観念的な映画だと思うんですけれど・・・。そのう、なんて言いますか・・・。

___すいません。もうちょっと短くお願いします。

観客:監督の作品を何回かみせてもらったときに、客層の方はわりと年配の方が多いと。年配の方が多いということは、わりと、まぁ無責任といいますか、飽きっぽい。で、話題性を追っている。『うなぎ』がヒットすれば『うなぎ』を観にいく。あるいは『失楽園』が話題になれば『失楽園』を観にいく。でも、その人達はもう、二度三度とその監督の作品を観に行かないわけですね。で、さっきから言ってますように、商業映画に対してこういった作品をつくってらっしゃる監督ですけれど、ご自分自身がそういった方向に転向される気持ちがあるのか。あるいは、今現在ですね、商業映画とか娯楽映画というのをどういう観点で見てらっしゃるのか、というのをお聞きしたいんですけど。

___はい。ありがとうございます。

監督:うーん。(笑)私の映画をいいなって言ってくれるのは、女子高生ちゃんもいるんですね。(笑)かなり。ほんで若い女の人とか。実はね、世代が決まってないんですよね。そこが、いいなぁと思っていて。うーん、商業映画とか、まぁ、プライベート・ムービーとか、この世代の人、この部分、とかっていうふうに分けるのが、私はあんまり面白くないなぁと思うんですよね。そんなに単純に、あるひとつの枠組みのなかにはめ込めるほど人間って単純じゃないし。すごく深いものだし。もっと言うなら、その人間が生み出す表現の世界というのは、千差万別ものすごくいっぱいあると。だからこそ、さっきの方の質問に答えたのとちょっと重複するかもしれないですが、この映画があると。それは唯一の映画なんだけれども、その映画対無限大の可能性を持つそれぞれの人たちが、それぞれの人の体験を重ね合せて見るからこそおもしろいんであって。たぶん「商業映画というのはどういうものですか?」と質問したらですね。きっと、よくわからない部分にもう今来てるんじゃないかと思うんですね。で、もし商業映画というものが儲け、儲かった映画、それでその部分を回収という形で考えてる映画だとするなら、『萌の朱雀』は、うちの主人はちゃんと回収を考えて(笑)、ちゃんと儲けも考えて、ちゃんと配収を、あがりの分でスタッフたちに分けるシステムを確立させておるので、これは商業映画になるのではと(笑)思うんですよね。で、むしろ、日本国内のみに商業映画という部分のカテゴリーを、入れてしまうことの方が、なんか狭くてですね。実は世界に出ていったときには、日本のなかの商業映画とか、アート映画とか、誰々さんが出てるとかはまったく無視されているわけで、誰が出てようが、良いものは良いと。おもしろいものはおもしろい。おもしろくないものは、おもしろくない。それは、この人がおもしろいと言ってても、その横で「オレおもんない」と言えるような人らがいっぱいおるんですよね。だからおもしろいなぁと思っていて。答えになってるかどうかなぁ(笑)。

___そしたら、ちょっと時間がきたんで、最後の質問受け付けとさしていただきます。お願いします。うわーっ、えらい多いなぁ。

監督:(笑)簡単に、簡単にじゃぁパッパッパッといきます、全部。

___はいっ、短くお願いします。えっ全部?

監督:えぇ。で、総括して答えができれば。はい。30秒しかないで。

(会場笑)

観客:あっ。えっと、個人的に河瀬さんの作品にすごく勇気づけられました。

監督:ありがとうございます。

観客:静かなものっていうのが、なんか激しい感情を打ち出せんのかな、とか、けっこうそういうことで迷ってたんですけど。それですごく、「あっ、できる」と思って勇気づけられました。で、ちょっとお聞きしたいんですけど、わらべうた、歌われましたね、『萌の朱雀』で。あれが、すごく存在感があったんですけど。オリジナルだとお聞きしたんですけど、あれはどこでどういうふうに、何を思ってつくられたんでしょうか?

監督:なんかねぇ、なんでもないときに、ポッと浮かんできました。いつやったか忘れたぐらいなんでもないときに。けっこうそういうときの方がね、構想はパッと浮かぶんです、私。(笑)じゃ順番にパッといきましょう。

___はい、次どうぞ。

観客:今回はプライベート・ムービーという括りなんですけれども、河瀬監、えー仙頭監督はプライベートというもののほかに、ローカル・ムービーっていうんですか。奈良というのは、どのようなご自分の・・・。

監督:関わり。

観客:えぇ。

監督:奈良はねぇ、自分の原点です。そこから先に飛び出すかもしれないけれど、原点です。

___はい。じゃぁ次。

監督:すいません、走らせまして。

(会場笑)

観客:『萌の朱雀』は16ミリで撮らはったんですよね。

監督:えぇ、スーパー16というのでね、35(さんご。35ミリのこと。)にブローアップするのを目的に撮ってます。はい。

観客:8ミリとか16ミリというのが監督の作品には多いと思うんですけど、8ミリとか16ミリに対するこだわりとか、35ミリに対するこだわりとかは、なんかないんでしょうか?

監督:えっとね、8ミリは、『かたつもり』を観てもらってもわかると思うんですが、自分のほんまに爪先のゴミまで映せるようなメディア。ようするに自分のものすごおく内面をね、映し出させてくれるようなメディア。ただ、それが35になってくると、あんまり映せなくなるんじゃないかなというのがあるから、それは作り上げていかなきゃいけない。35においてはね。そのような違いがあると思います。私はメディアとしてはこだわってないです。対象において、一番良しとするものを選んでるつもり。

___まだ、いきますか?

監督:まだ、はい。

___大丈夫ですか?

監督:うわっ、いっぱい挙がった。(笑)はい。55分に乗らないとね、帰れない。(笑)

(会場笑)

観客:すいません。立ち入った質問なんですが、おばあちゃんはお元気ですか?

監督:はい。元気です。

(会場笑)

観客:はい。ありがとうございました。

監督:(笑)

___大丈夫ですか?まだいけますか?

監督:はい。じゃぁ、あと3名。

___あと3名です。

観客:あんまり映画のこと知らないんですけど、『萌の朱雀』で、後半女優ふたりが、なんか同じ服着て部屋にいるシーンありますよね。

監督:はいはい。はい。

観客:あれは誰が撮影してるんですか?ということと、それと、今日の作品も観たんですけど、洗濯バサミとか、すきやきとか、あのジーッと撮るシーンて、あれはなんか、なんであれジーッと長いこと撮るんですか?

(会場笑)

観客:それで、それがね、おもしろいんですよね。それなんでかなと思って。

監督:うーん、見たいから(笑)、ですね。そのとき、たぶん自分の意識がそこにあるんですね。で、えっと、部屋のシーンは田村さんが撮りました。

___はい、次どうぞ。

観客:すいません、上南(うえみなみ)と申します。お願いします。

監督:どうも。

観客:『萌の朱雀』観にいきまして、感じたことが、体っていうか、感性で感じられても頭で考える映画じゃないなぁと思って。素朴にすごい感じたのは、お父さんはなんでどっかに行ってしまったんだろうなというのが最後に残ってて。で、それがすごい周りの人に影響していって。そういう映画だったと思うんですけれど、私なりに。そういう、お父さんがなんでどっかに行ってしまったか?っていうのと、感性で感じる部分を意図してつくられたのかというのと。

監督:そうですね。あの・・・

観客:あと、すいません。私自身ちょっと写真やってるんですけど、アートに関わっていく上で、きょう監督のおはなしを聞いてすごい勇気づけられたことも多かったんですけれど。私はプライベートな個人的な写真集とかつくってるんですが、それで悩んだこととかあったんで・・・。もう55分の時間に間に合わないんで無理だと思うんですが(笑)、恐縮ですが、パッと目を通していただいたらというお願い。すいません。

監督:(笑)お父さんがいなくなる映画なんですが(笑)、『萌の朱雀』という映画は。まだ観ていない人はぜひ観てください(笑)。えっと、そういった映画なのですが、いなくなったところの理由を描くよりも、いなくなってしまったことで、残された人たちが感じる思いを描いた映画なので、そのあたりで解釈していただけるとありがたいです。あと五感で感じる映画というふうな言い方で、まず前置きでさしてもらうこともありまして。『萌の朱雀』含め、自分の作品というのは、目で見えること、耳で聞こえることだけじゃなくって、肌で感じることも人間にはあるのではないかというような、スクリーンからにじみ出てくる空気が、私はそうだと思ってまして。それを感じ取れていただければ、きょうわからなかった人も、3年後にはわかるかもしれないという(笑)。そのへんの楽しさを含みつつ・・・。以上、以上ですね?

___えっ?あとひとりです。

監督:あとひとりですか?あーっ。

___あとひとり短くお願いします、短く。そちらの黒い服の方。

監督:(会場の時計を見て)あれ、おうてますね?

___おうてます、おうてます。

(会場爆笑)

観客:プライベート・ムービーのはなしが出たと思いますが。前NHKの教育テレビで・・・。

監督:「リアルを探せ」!ですね。

観客:すいません、ちょっと名前は途中から見たのでわからないんですけど。

監督:あっ「リアルについて」ですね。

観客:バッティング・センターとかプリクラとか出てたやつ。自分の中から出たものが世界観になるみたいな。きょうも自分の中を追及していくことによって、成長したり、外へ出ていったりできるみたいなはなしをしていたと思うんですけど。それに対して、先程も出ていたカメラマンの人のイメージや世界観とうまくあわせたりとか、役者さんの一瞬の表情をとらえるみたいな表現をされていると思うんですけど。自分の世界観をある意味で強烈にもっていて、他の人の世界観とどうやってうまく合わせながら自分の作品をつくっていくのか、っていうところを詳しく教えていただきたいんですけど。

監督:えぇーっと。妥協と強調。(笑)

(会場笑)

___わかりやすい(笑)。ということで、発言できなかった人はほんとに申し訳ないです。そして監督、お忙しいところ来ていただいてありがとうございました。

(会場拍手)

監督:ありがとうございました。

___ほんとにお忙しいと思いますけれど、お体に気をつけてがんばってください。

監督:はい。

___それから、こんな田舎ですけれど、また水口にきていただけたらありがたいです。

監督:あぁ、いえいえ。私ほんまにね、すごいと思うんです。次回作も主人とともに企てているんですが、地域とか、地元とか地方とかの方がぜったい力があると思うし、きょうの質問なんかでも、たぶんまだ質問されてない方も、かなりレベルの高い思いで物事と向き合ってらっしゃると思いますんで。きっとですね、世の中は自分たちが動かすんだというふうなこととして、またお会いできればと思います。どうもありがとうございました。

___では仙頭監督にもう一度拍手でお送りしたいと思います。

(会場拍手)



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